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「この庭園を拝見し、外出なさるのがお嫌いと言うわけではないと感じますし、お電話で長時間お話しされるお相手がおいでですので、社会との隔絶を望んでいらっしゃるとも思えません。もしヘインズさまにとって重大な理由があるのなら、それを申し上げれば殿下もご納得いただけるのではないでしょうか」
黙ったまま、次の穴を掘る。
ポットから外した苗は、立方体に固まった培土に糸のように白い根がぎゅっと凝縮されていた。
穴にビオラをイン。土をかぶせ、手で軽く押さえる。水をやると土が下がるから、あまり強く押しすぎないのがポイントだ。
「ヘインズさま、わたしでなくてもけっこうです。王宮へ一度おいでいただき、殿下に直接お話しいただけませんか」
エリオットはコテの柄を握りしめる。
理由なら、とっくにサイラスは知っている。並み居る貴族や全世界に放送されるカメラの前で、ひっくり返って王太子のしるしである銀の冠を放り投げることになるからだ。
どうして? それはエリオットが聞きたい。
なぜサイラスは、無理だと分かっていることをエリオットに迫るのか。それに、王宮は危険だからとヘインズ家へ逃がしたのは、他でもないサイラスを含めた家族だ。
いまさら、戻れって言うのか?
唇を噛むエリオットに、バッシュがため息をついた。
「エリオット」
侍従の仮面を外した、ぶっきらぼうな声。うつむいたエリオットの視界で、長靴のつま先がこちらを向く。
呼び捨てか、また勝手に距離を詰めやがって。
「黙るなエリオット。言わなきゃ分からないだろ」
「………」
「おーい、聞こえてるかエリオット?」
「………」
「エリー?」
うるさい、とエリオットが不機嫌に顔を上げるより先に、影が覆いかぶさってくる。
「リオ」
耳元でささやかれた声に総毛立った。
見下ろしてくる顔は、逆光で見えない。ほんの少し手を伸ばせば、捕まってしまう。捕まって、そして――。
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