フラット3-3 フラッシュバック(※)

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「いやだ!」  振り向きざま、悲鳴を上げて移植ゴテを投げつけた。それはとっさに避けたバッシュの頬をかすめ、ひさしに当たって麦わら帽子が飛ぶ。  飛びのいた体の全部が心臓になったように脈打ち、耳鳴りがする。  急に動いたからか目がチカチカして視界が回り、エリオットはその場に両膝をついてえずいた。 「っ…ぇ……」  朝食を抜いたために逆流するのは酸っぱい胃液だけだったが、痙攣するみぞおちを抱えてさらに数回吐く。 「エリオット!」 「触るな!」  かがんだバッシュが手を伸ばそうとするのを、必死に叫んで拒絶する。  震える腕で、這うように大きな影から逃げた。  息が苦しい。吸って吐く、たったそれだけのことなのに、いつもどうやって呼吸をしていたのか分からくなった。 「……エリオット、おれはお前に触ったりしない。だから落ち着いて息を吐け」 「いや……来ないでっ……」 「大丈夫。エリオット、息を吐くんだ。ゆっくり、そう」  バッシュの大きな手が、たん、たん、とリズムを取って花壇の淵のレンガを叩く。  この手は、エリオットに触らない。息を吐く。ゆっくり。  鈍い頭で、一つずつ言葉を理解する。 「おれはここから動かない。大丈夫だ」  額から流れてきた汗と涙でぼやける視界に、紫色のビオラとバッシュの手だけがはっきりと見えた。
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