フラット3-4 その日に起きたこと(※)

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 サイラスの立太子を祝うため、数日にわたって開かれていた夜会の最終日だった。  未成年と言う免罪符で連日の夜会を不参加で通していたエリオットは、最後だから少しだけ顔を出さないかと両親に誘われた。一日くらい顔を見せなければ、兄の立太子に不満があると取られかねない。  そんな政治的な憂慮もあったかもしれないけれど、第一には晴れの席で兄弟がそろっているところが見たかったのだと思う。だから強く拒否できなかったし、先に会場へ向かった両親の代わりに、部屋まで迎えに来たサイラスが差し出した手に甘えた。  車を寄せた玄関先には、サイラスに同伴するミシェルと、侍従やメイドたちが整列していた。王太子の外出だから都合のつく使用人が見送りに立つのは当たり前のことなのに、上階に現れた二人へ一斉に向けられた視線が、奮い立たせたエリオットの勇気をくじいた。  夜会へ行けば、この何十倍もの人に見られる。兄に手を引いてもらわなければ人前に出られない、情けない第二王子を。  そう考えた瞬間、急に足がもつれ、たたらを踏んだ先に床がなかった。  人は事故にあうとスローモーションのように見えると言うけれど、エリオットには何が起こったかも分からない一瞬のことだった。気が付いたら玄関ホールにへたりこんでいて、磨き上げられた大理石の床にサイラスが横たわっていた。  足を踏み外したエリオットを、手をつないでいたサイラスが引き上げようとして間に合わず、とっさに抱えて落ちたのだと、あとから聞いた。  そのときエリオットは、逃げ出したのだ。  自分がしでかしたことが恐ろしくて、暗い小部屋へ逃げ込んだ。目の前で起きた惨事に使用人たちが騒然と走り回る中、だれもエリオットがいないことになど気づかなかった。そして医師を呼べと叫ぶ侍従の声とサイラスに呼びかけるメイドの悲鳴に耳をふさぎ隠れていたところを、騒ぎに乗じたのかたまたま忍び込んだのか分からないが、何者かに襲われた。  呼び戻された両親は生きた心地がしなかっただろう。長男は脳震盪を起こし足を骨折する大けが。探し回ってようやく見つけた次男は服を剥かれ、白濁まみれだったのだから。
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