フラット3-4 その日に起きたこと(※)

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 幸いサイラスの怪我は命に別状がなく、玄関ホールでの出来事は使用人たちが一部始終を目撃していたため、純粋な事故と発表された一方で、その後エリオットの身に起こったことは一切が伏せられた。エドゥアルドは犯人を見つけ出して告訴すると激怒していたが、エリオット自身が捜査に耐えられる状態ではなく、フェリシアの生家であるヘインズ家へ匿われることになった。  以来、エリオットは一度も王宮へ足を踏み入れていない。  ヘインズ家の屋敷に招いてはと祖父に提案されたこともあったけれど、結局は顔を見る勇気が持てず、家族とは十年近くバースデーカードと年に数通の私信をやり取りする関係だ。  まぁ、どう思い返しても発端はエリオットで、サイラスは完全にとばっちり。さらに容疑者が特定できなかったために、王宮内に性犯罪者がいるかもしれないと言う爆弾を抱えるハメになった。  我ながら最低だな。 「……相手は」  首を振る。  ただでさえ使用人をはじめ不特定多数が出入りする場所で、現場の部屋は暗くて顔なんて見えなかったし、あの時はもうパニックだったから記憶もあいまいで分からずじまい。それがトラウマになり、人に触るのも触られるのも怖いし、暗闇も苦手で明かりを消して寝られない社会不適合者だ。
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