フラット3-4 その日に起きたこと(※)

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「そいつが、おれを『リオ』って呼んだんだ。子どものころのあだ名だけど、だから二度と呼ばれたくない……って」  言いながら見やると、バッシュは冴え冴えとした目で天井を睨み、腕組みして片足を細かく揺すっていた。  え、なに? もしかして。 「……あんた、怒ってんの?」 「当たり前だろうが! 子どもに手を出したんだそ。なんでそのクソ野郎は捕まらなかったんだ。告訴したんだろうな? 警察の怠慢じゃないのか!」 「捜査はしてない」  なぜ! とバッシュが吠える。 「おれも加害者だから」 「どう言うことだ」 「おれはクソ野郎に襲われた被害者でもあるけど、その前に加害者でもあった」  サイラスに、取り返しのつかない怪我をさせるところだった。打ち所が悪ければ万一のことだってあり得たのだ。 「だから、これは罰なんだ」 「そんな訳があるか!」 「ある。おれにとってはそうだから」  みんなに必要とされるサイラスの足を引っ張らないように、差し出された手に甘えられないように。触れることへの恐怖は、優しさにすがりたくてもできないように、神さまがエリオットに与えた罰だ。  言い切ったエリオットに、バッシュは険しい顔で黙り込んだ。  背中を丸めて両肘を膝に置き、組んだ手の親指で眉間を揉んで何度も深呼吸をする。 「……その加害とやらを、おれに話すつもりはないんだな?」  バッシュが知らないなら言いたくない。  なんでだろうな?  レイプされかけたことより、兄に怪我をさせたことを知られたくないなんて。
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