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「そいつが、おれを『リオ』って呼んだんだ。子どものころのあだ名だけど、だから二度と呼ばれたくない……って」
言いながら見やると、バッシュは冴え冴えとした目で天井を睨み、腕組みして片足を細かく揺すっていた。
え、なに? もしかして。
「……あんた、怒ってんの?」
「当たり前だろうが! 子どもに手を出したんだそ。なんでそのクソ野郎は捕まらなかったんだ。告訴したんだろうな? 警察の怠慢じゃないのか!」
「捜査はしてない」
なぜ! とバッシュが吠える。
「おれも加害者だから」
「どう言うことだ」
「おれはクソ野郎に襲われた被害者でもあるけど、その前に加害者でもあった」
サイラスに、取り返しのつかない怪我をさせるところだった。打ち所が悪ければ万一のことだってあり得たのだ。
「だから、これは罰なんだ」
「そんな訳があるか!」
「ある。おれにとってはそうだから」
みんなに必要とされるサイラスの足を引っ張らないように、差し出された手に甘えられないように。触れることへの恐怖は、優しさにすがりたくてもできないように、神さまがエリオットに与えた罰だ。
言い切ったエリオットに、バッシュは険しい顔で黙り込んだ。
背中を丸めて両肘を膝に置き、組んだ手の親指で眉間を揉んで何度も深呼吸をする。
「……その加害とやらを、おれに話すつもりはないんだな?」
バッシュが知らないなら言いたくない。
なんでだろうな?
レイプされかけたことより、兄に怪我をさせたことを知られたくないなんて。
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