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バッシュは王宮に仕える侍従だから、エリオットが王太子を殺しかけたなんて知ったらきっと軽蔑する。あれを事故だったと主張しても、王子としての公務からも逃げ、引きこもってることは変わらない。どちらにしたって最悪じゃないか。絶対に嫌われる。
嫌われる? 現時点で好かれてもいないのに?
自問自答しているうちに、バッシュは荒ぶる気持ちに折り合いをつけてエリオットに向き直った。
「分かった。お前が言いたくないなら、何も言わなくていい。ただこれだけは正直に答えてくれ」
「うん」
「おれは、明日もここへ来てもいいか」
胸がぎゅっとなるくらい、強い目だった。泣きたくなるような、でも怖いのとは違う。切ないほど真剣な問いだ。ここでエリオットが少しでも迷ったら、きっとバッシュはもうこのフラットへはやって来ない。
来て、と口が動いていた。
「でも、おれに触らないって約束して」
「約束する。おれは、お前に触れたりしない」
寝室の端と端に離れた二人のあいだで、何かが確かに結ばれたと感じた。たぶん、これを言葉にしろと言われたら、エリオットは信頼だと答える。
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