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フラット4-1 よき師
明け方から降り出した雨は、昼になっても弱まりを見せずに窓を叩いて落ちていく。
こう降られては屋上へ行く気など早々に失せて、エリオットはリビングの肘掛け椅子でテレビを見ていた。
秘密のうちの一つを打ち明けてから、互いに余計な力が抜けたと思う。
嫌がることはしないと言った言葉通り、バッシュはどうやって見極めたのかエリオットが緊張しない距離を保って立つようになり、足音を殺して歩くのをやめた。
エリオットも、バッシュが動くたびに神経をとがらせる必要がなくなったからか、玄関の扉を開けて自分じゃない人の気配がしても、いまは逃げ出したいと思わない。
こんなことなら、さっさと話しておけばよかった、なんてことまで考えるくらいだ。とか言って、あんな事故みたいなことがなければ、ずっと黙っていたに違いないのだけど。
「どうぞ」
キッチンで昼食の片づけを終えたバッシュが、ローテーブルにマグを置く。すっかりおなじみになったシュナイゼルのオリジナルブレンド。氷を二つ入れるのも忘れない。
あのあと、バッシュは何事もなかったように侍従の顔に戻った。エリオットのきわめて個人的な事情を、彼も職務ではない私的な部分で受け止めてくれたのだと思う。
「ねぇ、あんたの実家って清掃業者かなにか?」
抱えた膝でマグを支えて、エリオットは尋ねた。
「いいえ、父はただの公務員で母は主婦です。……何か、気になることでも?」
「持ってきた大量の清掃道具。明らかに家庭用じゃなかっただろ」
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