出会い1 オウゴンマサキの男

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出会い1 オウゴンマサキの男

「ヘインズ公爵でしょうか」  オウゴンマサキの新芽みたいな金髪とヒスイカズラを思わせる青い瞳に見下ろされたのは、エリオットがまさに平穏な日常から逸脱(いつだつ)した結果だった。  一応言いわけしておくと、宅配業者だと思ったのだ。きょう届く予定の荷物があり、いつもなら宅配ボックス届けにするものを、タイミングよくトイレに降りてきたところで呼び鈴が鳴ったものだから、ついでに受け取ってもいいかと玄関を開けたのが間違いだった。  くしを入れていないぼさぼさの髪に、ろくに手入れをしていない土と毛玉まみれのジャージと言うダメ人間代表みたいな格好で、エリオットは唸る。 「新聞、配置薬、宗教お断りだ」 「お待ちを」  秒で閉めかけたドアに、靴の先が突っ込まれた。  慣れていやがる。  数センチの隙間からでも、上等な燕尾服(えんびふく)を張り付けた厚い胸板が押しの強さを主張してくる。ぴかぴかに磨かれた革靴のつま先を蹴り出すより早く、低く通る声が告げた。 「王太子殿下の遣いの者です」  なお悪いじゃないか。 「名前は?」 「失礼いたしました。侍従を務めております、アレクシア・バッシュと申します。殿下より書簡をお預かりしてまいりました」 「アレクシアって……あんた、女?」 「まことに申し訳ございませんが、男でございます」  そうでございましょうとも。  こんながたいのいい男に、アレクシアなんてかわいい名前をつける親の顔が見てみたい。  まぁ、名付けたときはこんな成長するとは思っていなかったのかもしれないが。それにしたって男として生まれたんだから、もう少し考えてやってもいいだろうに。
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