14人が本棚に入れています
本棚に追加
七月五日、晴れ。
七月五日、晴れ。
オーディション、エキストラと立て続けにチャンスが潰えたことで、さすがの沙織もしばらくは落ち込んでいた。それでも何とか立ち直り、この日は柚葉と渋谷へやってきていた。
「またオーディション受けようと思うんだよねー」
流行りのパッションドリンクを片手に沙織は言った。隣を歩く柚葉が呆れた顔で苦笑した。
「まだあきらめてないの? これだけうまくいかないのに」
「諦めたりなんかしないよ! 私、芸能界に行くんだから!」
「はいはい。もう勝手にしてればー」
「にしても……なんで、こう運が悪いかな。『これはチャンスだ!』って思ったら何か起きる」
「神様がやめとけって言ってんじゃない? 芸能の道に行こうとするたびに何かあるんでしょ? あんたが選ばれない理由が何かあるんだよ」
「私が選ばれない理由ぅ? チャンスすら貰えないの? 神様ってそんなに意地悪なの?」
そんなことを話しているときだった。
ちょうど前には、若いカップルが歩いていた。そこにスーツの男が話しかけていた。
「あれってまさか……」
沙織が呟く。
スーツの男は名刺を取り出し何やら自己紹介を始めていた。
どうやら女のほうに話しかけているらしい。女は「えー、本当にー?」と歓喜の声を挙げていた。
「芸能界のスカウトかもね」
ボソリと、隣の柚葉が呟いた。
「だよね!」
沙織が少し大きな声を出す。
「運が悪かったなー……」
「いやいや、これは運とかじゃないでしょ。スカウトされたのはあの子だよ。なに、まさかあんたが前を歩いてれば、あんたがスカウトされると思ってるわけ?」
スカウトらしき男は、喜ぶ女をカフェへと連れて行く。なにか説明でもするのだろう。彼氏らしき男はその後ろを歩きながら、何やら携帯電話をいじっていた。
その光景を見ながら、沙織が口を開く。
「だってあの子が前を歩いていなければ、あのスカウトは、あの子じゃなくて私に気づいてくれたかも……」
「ないない。どんな妄想癖だよ」
柚葉は首を横に振った。
「そんな即否定しなくてもいいじゃん」
沙織は膨れっ面で柚葉を肘で小突く。柚葉は笑った。
「本当に……なんで神様は選んでくれないんだろう」
これで三度目だ。
柚葉が言う通り、本当に自分は神様に選ばれていないのか、だとしたら、その理由は何なんだろう、そんなことを沙織は考えていた。
最初のコメントを投稿しよう!