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先ほどのカップルとスーツの男がカフェに入っていったかと思うと、彼氏らしき男だけが出てきた。彼女とスカウトだけで何か話すのだろうか。
その男に何か既視感のようなものがあった。
「あれ……?」
沙織は、左手の手のひらを口元に充て、この違和感の正体を考える。
「沙織、神様が選んでくれない理由でも考えてんの?」
柚葉が言った。
「そんなの沙織の日頃の行いとかじゃない? 神様はあんたがいつどこで何をしているかちゃんと見てるんだよ」
「『いつどこで何をしているか』……?」
それを知っているから、先回りできる存在がいる。
そう思った沙織はあることを考えた。
そして、同時に走り出し、前を歩く男の肩を沙織は捕まえた。
いきなり背後から肩を掴まれ驚いた男が振り向く。茶髪で濃い青の瞳、線の細い男だった。
その男の顔を沙織は知っていた。
「やっぱり……あなただったのね!!」
その言葉を聞いて、男は眉間に皺をせた。
「なんのことです……? あなたは誰ですか?」
「しらばっくれないで! 私の未来を邪魔しているのは貴方でしょう?」
「邪魔……?」
「五月のオーディション会場でも、六月の学校ロケも、今日のスカウトもあなたの仕業でしょう? 全部の現場に、あなたはいたんだから!!」
目の前の男を沙織は毎月のように見ていた。
五月のオーディションでは、警備員として立っていた。
六月の学校ロケでは、機材の搬入をしていた。
今日の渋谷では、スカウトの前に立ちはだかるカップルの彼氏だった。
「あなたは何なの? 未来からでもやってきたの?」
沙織に指差された男は、一瞬驚いた顔をしたかと思うと、声を挙げて笑い出した。
「僕が……未来から来た……? そんなのを当てた人は初めてですね」
男は不敵に笑った。
「何か飲みたい物でもありますか?」
沙織も笑い返す。
「熱くなっちゃったし、いただこうかしら」
持っていたパッションドリンクを飲み干して、沙織は言った。
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