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男は沙織をカフェに誘った。
沙織は、状況を掴めていない柚葉に「また月曜に説明するから」と言って、帰ってもらった。
多くの人がごった返すカフェ、窓際の席に男と沙織は座った。男はアイスカフェラテ、沙織はアイスティー、代金は男が支払った。
「僕は月島真那斗。あなたは?」
男が名乗った。「あなたは?」と真那斗に聞かれたので、
「あ、高平沙織です」
と沙織もまた答えた。
真那斗は沙織の目をしばらく見ていた。その深い湖のような瞳に吸い込まれそうな感覚があった。
「僕が未来から来たってよくわかりましたね」
真那斗はアイスカフェラテを口にした。
よくよく見ると綺麗な顔をした男だなと沙織は思った。そして整った顔立ちよりも際立つのは、肌の色の白さだた。夏だというのに色白で、ほとんど日に焼けたことがないように見えた。
「あなたがオーディション、学校、ここ渋谷で私の都合悪いときばかりに現れたからね。あなたが何かの方法でそれぞれを仕組んだでしょ?」
「……気になる発言が混ざってますが、『仕組んだ』というのはあってます。僕は未来からやってきて、過去に起きた出来事を変える仕事をしています。クライアントから依頼を受けて、大きな歴史の道筋を変えるものでなければ引き受けてるんです。割とお金が儲かるお仕事です。あ、タイムスリップの仕組みは企業秘密です」
わざとらしく真那斗は手を口に当てた。
「信じる、信じないはあなたの自由です」
「でも、現実として私は邪魔されている……。三つともあなたがやったの?」
「そうです。五月、イベントの中止を依頼されました。なので、テロ予告を出しました。もちろん、爆弾も何も仕掛けていません」
「実際に爆弾は見つからなかったって、確かにニュースでやってたわ」
真那斗は頷いた。「人を傷つけることはしたくないので」と言葉を添えて。
「海外サーバーから接続してIPアドレスの逆探知はできないようにしました。この時代の技術では永遠に突き止められないと思います。一応、中止されるか見届けるため当日も潜入してましたけど。そこを見られたみたいですね」
真那斗は笑った。
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