七月五日、晴れ。

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「六月、学校ロケを中止させる依頼を受けました。方法は問わない、延期でなく中止に持ち込んでほしいとのことでした。なので、主演の倉橋蓮の女グセの悪さを動画に収めて週刊誌数社に売りつけました」 「あんなネタどこから……。三股騒動で大炎上してたよ?」 「いずれ世の中にバレることだったんですけどね。少し先回りしました。これも中止を見届けるために学校に潜入してました」 「で、今日のこともあなたが?」   「そうです。今日の場合は、少し面倒でした。そして、少し不思議な依頼でした。誰でもいいので、今日、女の子をスカウトの目に止まらせろというものでした。あなたたちの前を歩いてくれと。あなたがスカウトされるより先に別の子をって」 「何それ?」 「不思議な依頼ですけど、引き受けてみました。スカウトが現れる日時がわかっていたので、それを見計らってあなたたちの前を歩きました。結果、先ほど見てもらったように、その子が声をかけられました」 「よくそんな都合よく声をかけられるような子を知ってたのね」 「僕は未来から来ているわけですからね。まだ芸能界デビューしていない子がこの時代のどこにいたかはわかります。ちなみに一緒に歩いてもらった子は、これから四年後にある映画でアカデミー賞を取ることになる子です。呼び出した方法は企業秘密です」  そこまで話すと真那斗はグラスを手に取り、ストローで飲んだ。  店内のBGMがやけに沙織の耳にうるさく聞こえた。 「……で、私はあなたに邪魔をされなきゃいけないの? 私があなたに何かをした? 理由はなに!?」  語気を強めて言う沙織に怯むことなく、真那斗は右の人差し指を眉間に当てて「うーん」と唸った。 「……そこがさっきから気になるんですよね。僕が『あなたを選んだ理由』っていうのはないんです」 「え?」 「五月、六月、そして七月……、今回だけは『あなたたちの前を歩く』という指定がありましたが、あと二つの依頼ではあなたの邪魔をする意図はありません」 「じゃあ……?」 「……クライアントのみぞ知るところですが、先の二つはあなたの名前は出てきていません。ただの偶然かもしれない」  そうなんだろうか。沙織は天井を見上げて考えた。  ただの偶然なのだろうか。しかし、そもそも今日の依頼が変じゃないんだろうか。なぜ私の前を歩くという条件のもとでスカウトされるなんてことが依頼されるんだろう。  何か必然の理由があるのではないか。 「うーん……そうなのかな」  まだ納得しきれず沙織は唸った。そんな沙織を見て真那斗は首を傾げる。 「じゃあ、もう芸能界を諦めてはいかがですか? そうすれば、もうこうやって会うこともない」 「絶対、諦めない!」  即答だった。  その凛とした沙織の態度に真那斗は微笑んだ。 「何度こんなことがあったって私はチャンスを手に入れるから!」  アイスティーはいつのまにか空っぽになっていた。考え込んでいる間に飲み干してしまっていたらしい。 「もう一杯飲んでもいい? そっちのおごりで」  その言葉に真那斗は苦笑した。
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