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「せっかくの大口顧客だったのに」
赤い傘の女がため息をつく。
「世界に影響を与える出来事を僕らは引き受けちゃダメだろ?」
「影響って……、今日のを含めて四つとも単に彼女の母親からの依頼でしょ? 結局は『高平沙織を芸能界に入れさせない』ための依頼でしょ? 別にマリーアントワネットを救い出すわけじゃないんだから、引き受けてもいいでしょ?」
「うん。彼女の母からちゃんと詳細を聞いたよ。でも、まさかあの子がmagic materialのメンバーになるなんてね。唯華知ってた?」
唯華と呼ばれた少女は首を横に振った。
「ううん、本名で活動していないからわからなかったね。名前から子音を削って『AOI』ってなってるんだもん」
沙織は、真那斗の知る未来では、大人気ガールズダンスグループ・magic materialのメンバー、AOI《あおい》として活躍しているのだった。
「で、あの子が売れた後に、偽のスキャンダルに巻き込まれたり、事務所ともトラブルになったりした……。そんな結末になるぐらいなら、娘が芸能界に入らないようにしたい。母親ならではの願いよね」
沙織の母親は、沙織が芸能界入りするチャンスを消すことを目的としていた。
そのため、まずは芸能界に入るきっかけとなったオーディションを中止にする依頼をした。
それが五月のダンスオーディションだった。
これで、未来は変わるはずだった。
確かに五月のオーディションはなくなったが、今度は別の流れで沙織が芸能界入りすることがわかったのだ。
六月のカメラロケで倉橋蓮とすれ違う女子生徒役が話題となり、デビューする、それが沙織だった。またもや未来を変えるべく、今度はこのロケを中止してほしいと沙織の母親は依頼した。
しかし、またもや未来は変わらなかった。
七月の渋谷で、沙織はスカウトされて芸能界入りすることがわかったのだ。
沙織の母親は、何をしても娘は芸能界に導かれてしまうのだと考えた。
もはやイベントの中止ではダメだ。沙織本人に諦めさせるしかない。
目の前で別の子がスカウトされれば、自分は劣ると考えて諦めるだろう、沙織の母親はそう考えた。
しかし、沙織がデビューを諦めることはなかった。
三度、芸能界への道が防がれても沙織は「絶対、諦めない!」と意志の強そうな瞳で語った。
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