迷子秘宝

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「素晴らしい!こんなに豪華でキレイで美しい装飾品は初めてみた…!」石油王の男は興奮して取り乱していた。この男は巨万の富を持ち、数多くの財宝を所有していた。何億もする装飾品も大量に所有していが、この時古物商に見せられた逸品に一目で虜になったのだ。 「幾らだ⁈幾らで売ってくれる?」 「申し訳ございません。コレは売れないのですよ。」 「何ぃ〜⁈何故だ、理由を言え!」 「この品は別名“迷子秘宝”と呼ばれていましてね、これを手にした人は必ず不幸が訪れます。それにコレは私の子供のような物です。誰にも手なずけられませんよ…。」 「手なずけられないだと…?どういう事だ⁈」 「フフッ、この装飾品はひっかいて、噛み付いて来るんですよ。これに手を出すのはやめた方がいい。アナタの身のためにも…」石油王は顔を真っ赤にして店を出た。するとすぐ誰かに電話をした。 「ワシだ。また仕事をして欲しいのだ。なーに、簡単な仕事だ。とある物を手に入れて欲しいだけだ。」 翌日、古物商が店に来ると何やら店の様子がおかしかった。古物商は『もしや…』と思いあの装飾品が置いてある棚を見た。予想は当たっていた。昨日確かにそこにしまっておいたあの装飾品が消えていたのだ。 だが古物商は警察に通報する事も、装飾品を探す事もしなかった。昨日までと同じように店の経営を続けているのだった。すると一ヶ月後、一人の若い女性が古物商の店を訪れた。 「すいません、これを買い取って欲しいのですが…」 「ハイハイ、少し鑑定させて下さいね。」“その”は掌だいの大きさの何か骨董品のようではあったが、ひどく汚れていた。どうやら長い間海底に沈んでいたようで、小さな貝やフジツボのような物がビッシリと付着していたのだ。 「んー…、相当な古い物みたいですね…、これは。これじゃあほんの気持ち程度しかお支払い出来ませんよ?」 「いいです。お願いします!これは数ヶ月前、私の祖父が知人から引き取った物ので、もとはとあるトレジャーハンターが数百年前の豪華客船をサルベージした時に見つけた物らしいのです。それから回り回って骨董付きの祖父のところに来 たみたいなのですが…、コレは変なんです!磨いて綺麗にしようとしてもこびり付いた汚れは磨いても全然取れないし、挙句には付着した貝で手を切ってしまう始末です。まるで人を拒絶するかのように、誰かに触れられるのを嫌がっているかの様に…! それにコレは夜になると動くんです!朝起きると確かにしまっていたはずが床に落ちてたり、箱の中でガサガサ音がしたり…。コレはきっと呪われているのですよ…!」 「はぁ…、そんな事はないと思いますが…。まぁ、そういう事なら。」古物商は紙幣三枚ほどで“それ”を買い取った。女性が店を出ると古物商はすぐ店を閉めて“それ”を持ってバックヤードに入っていった。 「フフッ、一ヶ月ぶりだな。今回は一体どんな時代のどんな人のところに行ってたんだ?こんなに汚れてしまって…。さぁ、話を聞かせてくれ。」男がニヤニヤしながら研磨剤と布で“それ”を磨くとたちまち元の美しい装飾品の姿を取り戻した。装飾品はまるで久方ぶりに飼い主の元に戻ってきた迷子犬のように尻尾を千切れんばかりに振り、喜びを爆発させているかのように輝いていた。
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