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空を見上げると満面の青だった。
浅川清海は晴れ渡った空の下をゆっくりと歩く。
自宅から最寄りの小さな駅までは徒歩15分位かかり、都会にしては決して便利な環境ではなかった。
同僚等は皆、駅から4〜5分も掛からないワンルームマンションを借りているようだった。
けれど清海は敢えてあの不便な二階建てを選んだ。築50年の小さな二階建て。駐車場はなかったが元々晴海は運転が苦手だったので対して問題なかった。それに、晴海が生まれ育った地方の小さな町では車が必須だったが、電車やバスがありどこへ行くにも困らないこの都会で車は必要なかった。
二階建ての一階には年季の入った台所と畳敷きの居間、御手洗いとお風呂場があった。
居間の畳は晴海が入居する前に交換した事を不動産が伝えてきた。
問題は風呂場にあった。シャワーは一応付いていたが水の出が悪く、毎晩お風呂を沸かす必要があった。その風呂釜も旧式の物で、古い給湯器が風呂釜の横にあった。給湯器をつけた直後は少しガスのような匂いもしていた。
だけど、二階建ての古民家には小さな庭もあった。休みの日にこの庭で日差しを浴びながら読書することに小さな幸せを感じていた。
晴海はこのレトロな家での暮らしを気に入っていた。
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