或る雨の日に…

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晴海は時々、空を見上げながら歩いて行く、慌てるのが好きではなかった。だから毎日必要以上に早く起きて、充分余裕を持って出勤をしていた。  今日は空が笑っている。  今日は大丈夫。  晴海はそう感じていた。  先月は雨雲が多い日が続いていた。晴海は決して雨が嫌いではなかったが、青空の下で歩くのは気持ちが良かった。  そして、今日は雲一つない。  気持ち良い。  晴海、潮の香りを少し感じた気がした。  ここは海からそんなに遠くなく、風向きによっては風に運ばれた潮の匂いを嗅ぐことができた。晴れた日は特に多かった。  気温は少し暖かくなっていた、確実に夏は近づいていた。  晴海はこっそりと背伸びをした。  古民家から最寄りの緑園寺前までの閑静な住宅街が続いている。晴海が歩く時間帯はまだ人通りが少なかった。サラリーマンや学生が家を出る時間はその多くが晴海の出勤時間よりも1時間遅かった。  駅へ向かう途中にある坂道を降る。勾配は然程そんなにないが、少し長めの坂道だ。  その、坂道の途中に少しレトロな家がある。  赤茶色の屋根に白い壁の二階建て。家の右隣には小さな庭がある。その庭には白い石で整えた花壇があり、花壇には少し大きめの茎が緑の葉を咲かせている。葉と葉の間には小さな蕾も見えた。  青色の玄関戸が開かれる、黒い革靴が見えた。晴海は立ち止まる。  白いシャツにグレーのスーツを着た男が出てきた。背筋を伸ばした、短髪の男には清潔感が漂っていた。  晴海は男に目を向ける。  男は手をあげて笑顔で降っている。  晴れた青空、晴海は自然と笑みを浮かべていた。
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