0人が本棚に入れています
本棚に追加
晴海は時々、空を見上げながら歩いて行く、慌てるのが好きではなかった。だから毎日必要以上に早く起きて、充分余裕を持って出勤をしていた。
今日は空が笑っている。
今日は大丈夫。
晴海はそう感じていた。
先月は雨雲が多い日が続いていた。晴海は決して雨が嫌いではなかったが、青空の下で歩くのは気持ちが良かった。
そして、今日は雲一つない。
気持ち良い。
晴海、潮の香りを少し感じた気がした。
ここは海からそんなに遠くなく、風向きによっては風に運ばれた潮の匂いを嗅ぐことができた。晴れた日は特に多かった。
気温は少し暖かくなっていた、確実に夏は近づいていた。
晴海はこっそりと背伸びをした。
古民家から最寄りの緑園寺前までの閑静な住宅街が続いている。晴海が歩く時間帯はまだ人通りが少なかった。サラリーマンや学生が家を出る時間はその多くが晴海の出勤時間よりも1時間遅かった。
駅へ向かう途中にある坂道を降る。勾配は然程そんなにないが、少し長めの坂道だ。
その、坂道の途中に少しレトロな家がある。
赤茶色の屋根に白い壁の二階建て。家の右隣には小さな庭がある。その庭には白い石で整えた花壇があり、花壇には少し大きめの茎が緑の葉を咲かせている。葉と葉の間には小さな蕾も見えた。
青色の玄関戸が開かれる、黒い革靴が見えた。晴海は立ち止まる。
白いシャツにグレーのスーツを着た男が出てきた。背筋を伸ばした、短髪の男には清潔感が漂っていた。
晴海は男に目を向ける。
男は手をあげて笑顔で降っている。
晴れた青空、晴海は自然と笑みを浮かべていた。
最初のコメントを投稿しよう!