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七瀬穂乃果〈ななせ ほのか〉は、あまりに完璧な人間だった。
文武両道、容姿端麗。腰まで届く長い髪は大和撫子を思わせ、おおよそ女子の望む理想的な体型を持ち、誰にでも笑顔を見せるその振る舞いは実際、彼女を聖女と崇める者がいるほどだった。
だが、そんな穂乃果にも唯一、欠点と言えるものがある。それは弟の存在だった。
「七瀬、お前に客だぞ」
「客?」
七瀬悠斗〈ななせ ゆうと〉は、クラスメイトの言葉に首をかしげた。
今は一時限目が終わってすぐの休憩時間。
こんなタイミングで自分を訪ねてくる相手を、悠斗は一人しか知らない。だが違う可能性もあるので、ひとまずそんな反応を返す。
と、同時に。
「ゆう……く~~~~~~~~ん!!!!」
「がはっ」
突然、質量のある衝撃。
質量と言っても硬さはなどはなく、感じるのはやわらかさと鼻腔をくすぐる良い匂いだけ。
「……お姉ちゃん、苦しいんだけど。あと毎度毎度、挨拶代わりみたいに抱きついてこないでくれる?」
「うん? ああ、ごめんごめん。悠くんの顔見たら、ガマンできなくて勢い余っちゃった」
「エサを前に、待てを解除された犬かなにか?」
そう言って呆れ顔を向けるが、穂乃果が拘束を緩める気配はない。
むしろ、抱きしめる強さはどんどん増していき、悠斗はリアルな意味で溺れそうになった。
その後、無理やり押しのける形で、ようやく拘束から解放されると。
「ったく、もう……前から言ってるけど、そんな頻繁に教室来ないでってば。一応、学年違うんだから」
「学年が違っても来るに決まってるじゃない。だって、そこに悠くんがいるんだから」
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