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登山でニキビは治せない
私の名前はセリザワカスミ!
今をときめく女子大生!
でも最近、顔にでき始めた大人ニキビが気になって……。
「よっ! セリザワさん! 課題のレポートやった?」
キャーッ! この人は同じゼミの白鳥(シラトリ)くん! 一緒の講義を受けるときによくこうして話しかけてくれるんだけど、こんなニキビ顔じゃ目を合わせられないよー!
「はぁ~……」
「どしたのカスミ、ため息なんかついちゃって」
講義を終え学食でオムライスを食べていると、ついついため息をついた私にリナがそう訊ねてくる。
「あ、リナ……実はね、最近顔に大人ニキビができちゃって……」
「大人ニキビ?」
「リナはすっごい肌キレイだよね、なにか特別なことしてるの?」
「いや別に? 普通にスキンケアしてるだけだよ。あとは……ちゃんと睡眠取るとかさ」
「睡眠かぁ……そっか! 私に足りないのは睡眠だったんだ!」
そうして私は課題のレポートを無視して十二時間眠った!
でもニキビはなくならなかった……。
「ハルカぁ……」
「なになに、いきなり電話なんかかけてきてー。っていうか久しぶりー! 高校の卒業式以来じゃん!」
「あのね、実はかくかくしかじかでぇ……ハルカって昔から赤ちゃんみたいな超たまご肌だったよね? やっぱり一日二十時間くらい寝てるの~……?」
「私は赤ちゃんそのものか? そんなに寝とらんわ! ……肌トラブルが悩みなら、漢方を試してみたら?」
「漢方?」
「うん。私小さいころからおばあちゃんに勧められてずっと漢方やってるよ。だから肌質良いのかも」
「漢方かぁ……、分かった! 私漢方やってみる!」
そうか、私に足りないのは漢方だったんだ!
そうして私は漢方を飲み始めた。
「うっわにっが……でも飲まなきゃ……飲まなきゃニキビが……ニキビが……ウワァーッ!」
「というわけでもう頼れるのはお母さんただ一人なわけですよ。お母さんだって年のわりには美肌なんだし悩める娘の私にアドバイスをお願いします睡眠と漢方以外で!」
「『年のわりに』は余計よ! ……そうねぇ、一度皮膚科に行って診てもらったら?」
「皮膚科?」
「ニキビで皮膚科に通ってる人、案外多いって聞くわよ」
「そうなんだ……! お母さん私皮膚科行ってくる!」
盲点だった! 肌トラブルは皮膚科! プロフェッショナルに診てもらえば解決間違いなし!
そう、私に足りないのは皮膚科だったんだ!
「ストレスですね」
「スト……レス……?」
皮膚科のおじいちゃん医師の口から出た思わぬ言葉に私は戸惑う。
「あと比較的若い子だと、暴飲暴食や不規則な生活がニキビの原因となっていることが多いです。まずは普段の生活を見直すことから……くどくどくどくど」
どうして? どうして私は待合室で長い間待たされた末にお医者さんにお金を払って説教されているんだ?
っていうかストレスが原因って今が一番ストレスだよー! ウワァン!
そして私は登山を始めた。
山は良い。空気は澄んでるし、緑に囲まれていて……、なにより山の人たちは誰も私の顔のニキビなんか気にしない。みんな山に夢中なのだ。
私は大学の講義がない日は毎日山に登った。山小屋でのアルバイトも始めた。
人生の全てが充実していた。
そう、私に足りなかったのは山だったのだ。
そんなマウンテンライフ満喫中の私の元へ、ある日白鳥くんがやってきた。
「し、白鳥くん!? どうしてここに!?」
「いやぁ、セリザワさんがこの山小屋でバイトしてるって聞いたからさ……」
「それで会いに来てくれたの!?」
キャーッ! 白鳥くんがえっちらおっちら山を登って私に会いに来てくれるなんて、夢みたい!
「うん。それでさ、セリザワさん……ちょっと一緒に山頂まで登らない? バイト中だし無理かな……」
「ううんっ! 私ちょうどバイト辞めようと思ってたところ!」
これは間違いなく山頂で告白されるパターン! やっぱり山って最高!
「山の上のほうは雪、もうけっこう積もってるんだね。俺普段登山しないから、知らなかったよ」
「そうだよー、雪ってね、崖からせり出すように積もるから、雪の下にまだ地面があるように見えても、実はもう崖からはみ出てるかもしれないから気をつけて……ってウワァー!!」
「セリザワさん!? 危ない!!」
一瞬の油断だった。人生最高の瞬間に浮かれていた私は、すでに自分が崖からせり出すように積もった雪の上を歩いていたことに気付かなかったのだ。
足元の雪は一気に崩れ、私の身体は真っ逆さまに崖下へと落ちていった……。
「セリザワさん!? セリザワさん!?」
「ほへ?」
「よかった、もう目を覚まさないかと思ったよ……」
積もった雪がクッション代わりとなったのか、それとも白鳥くんが身を挺してかばってくれたのか、私は少しの間気を失っただけで済んだ。でも白鳥くんはどこかを痛めたのか、苦痛に顔を歪ませていた……。
「白鳥くんのほうは? 大丈夫……?」
「……セリザワさん。言えなくなっちゃうかもしれないから、今言うね。俺、ずっと前からセリザワさんのこと、好きだったんだ……」
「そんな……私なんて顔にニキビがあるし、ニキビがあるよ……?!」
「顔にニキビ……? セリザワさんの顔にニキビなんて、一つもないじゃないか……」
「えっ……?」
言われて私は自分の頬に手を触れた。本当だ! ニキビ、なくなってる!
「セリザワさん、山に登るようになってから、なんだか、キレイになったよね」
「そうかも……!」
……山だ! 山がニキビを――
§
「ハッ……。ここは……病院……?」
「カスミ! よかった、もう目を覚まさないんじゃないかと思ったよー!」
ベッドに横たわる私に、心から安堵した様子のリナが抱き着いてきた。
「リナ……? どうしてリナが……?」
「カスミが雪山から滑落したって聞いて、ずっと心配してたんだよ? でも白鳥くんがすぐ山小屋から救助を呼んでくれたおかげで、助かってよかった!」
「えっ……? 白鳥くんも私と一緒に、崖から落ちたはずじゃ……?」
「ううん? あっ……もしかして記憶が混濁してる? カスミさっき、すごくうなされてたもんね……」
「じゃ、じゃあさっきの告白は、夢……?」
私は震える手で自分の頬に触れる。そこにはおなじみの大人ニキビが当たり前みたいにブツブツとありました。
「ニキビ……治ってない……」
「ニキビ? そういえば顔のニキビ、いっそうひどくなってない? ちゃんとスキンケアしてる?」
「……してない……」
「そんなことだろうと思って、さっき下の売店で買ってきたよ! スキンケア用品! これからはちゃんとスキンケア、しよ?」
「はい……」
そうして私はリナおすすめの大人ニキビケア用品を使って丁寧なスキンケアを始めた。
すると嘘のようにニキビは治って……ついでに骨折していた足も治りました!
「セリザワさん、明日退院できるんだって?」
「うん。いろいろと迷惑かけちゃってごめんね、白鳥くん」
「気にしないで! ……それよりセリザワさん、最近、キレイになった?」
お見舞いに来てくれた白鳥くんは、そう言って私の顔をじっと見つめた。
ニキビが治って、いつの間にか私も、白鳥くんの顔をまっすぐに見ることができるようになっていた。
私に足りなかったのは、丁寧なスキンケアと、バランスのとれた食事(病院食)だったのだ。
登山でニキビは治せない。
だからみんな! スキンケア、しよう!
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