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四郎が突然村から姿を消したのは、私が十三歳になった春だった。
前日からの雨で増水した川に落ちて流されたに違いない、川は村の外で本流に合流するから遺体は見つからないだろうということになり、おざなりに行われた彼の捜索はすぐに打ち切られた。
家おじ一人の失踪など、村にとっては事件でもない。葬式も出さず仕舞いだったが、子どもたちはみな彼を偲んで泣き、私はその後しばらく、数人の女子から詰られたり嫌がらせを受けることになった。
四郎は私を探しに出て川に転落したのではないかと言われていたからだ。
「菫子のせいではないから、気にしなくていいのよ。とにかくあなたが無事で良かったわ」
母や姉たちはそう言って私を慰めてくれた。四郎が失踪した日の夜、私は森で迷い、朝まで家に帰らず家族を心配させたのだった。
森の底なし沼は一見したところではただの水たまりで、夜にはそのぬかるみさえ見えない。そのうえ、春の森には野犬や熊が出ることもある。村の人たちで話し合い、私の捜索は明朝からと決定した時、四郎がいないことに誰かが気づいたのだという。
「四郎と一緒ではなかったのか」
暗い森で一夜を明かした私は、家に帰るなり二郎にそう聞かれたが、疲れた顔でただ首を横に振った。
私のために家に集まっていた人たちがそのまま四郎の捜索に当たったが、彼は忽然と姿を消し、二度と再び現れることはなかった。
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