卒業

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卒業

高校では1年から3年まで同じクラスだった。入学式の日に 「山下くん。同じクラスだよ。よろしくね。」と声を掛けられた。ドキドキした。同じ中学からは数人が同じ高校へ進学したが、クラスはみんなバラバラだった。唯一、ボクと島田さんだけがクラスメイトだったようだ。島田さんは群を抜いてかわいくて、すぐに男子どもを虜にしていた。女子からは最初は少し敬遠されていたようだが、明るく気さくな性格ですぐにみんなの輪の中心になっていた。 そんな姿の島田さんを見ているだけでボクは幸せだった。ニコニコ微笑んでいる島田さん。ワハハハと大きな声で笑う島田さん。エヘヘと照れ笑いしている島田さん。いろんな笑顔の島田さんが思い出される。 島田さんは時々ボクに話しかけてくれていた。「何読んでるの?」「次の授業は何だった?」「消しゴム貸して。」など。でも、ボクは緊張しすぎて言葉がすぐに出てこなかったので、周りのみんながボクに話しかけても無駄だと島田さんに言うようになった。 ボクは3年間、毎日自転車で通学していた。島田さんはバスに乗って、通学していた。ボクも最初はバスにしようと思っていたが、バスは混んでいるし、バス停から学校まで5分程度歩かないといけないので、ボクは自転車通学に決めた。 卒業式の日、ボクは遅刻ギリギリで焦っていた。卒業式という大事な日に限って寝坊をしてしまった。自転車を猛ダッシュで漕いでいると、島田さんが一人で走っていた。通り過ぎようと思ったが、それはあまりにひどいことだと思い、自転車を止めた。島田さんは息を切らせながら、 「山下君。」と言った。ボクは言葉が出てこなくて、自転車の後ろを指した。 「乗せてくれるの?ありがとう!!」と言って、島田さんがボクの自転車の後ろに乗った。島田さんは「重いよね、ごめんね。」とか「バスに乗り過ごしてしまったの。」とか「わたし、山下君に嫌われていると思ってたよ。」とか「今日の卒業式泣いちゃうだろうな。」とか色々話しかけてくれていた。ボクは何も言わず、ただこの出来事に感動していた。 高校の3年間はボクにとって夢のような日々だった。島田さんのことだけを見て過ごすことができた。でも、これからは別々になってしまう。ボクは一浪が決定していて、島田さんは東京の大学へ行ってしまう。ボクは高校卒業とともに島田さんからも卒業しようと決めて、あの薬を飲んだ。(島田さんのことを忘れられますように)と。
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