偶然

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偶然

ボクは一浪後、無事に地元の大学に合格した。地元にあるホテルのレストランで厨房のアルバイトをしていた。夏季休暇、冬期休暇は人手不足になるため、臨時アルバイトを募集していた。すると、偶然、東京から地元に戻っていた島田さんが長期休暇だけアルバイトとして働くことになった。島田さんはレストランのホールでの仕事だったが、一人暮らしをしているので、料理を教えて欲しいとボクに言ってきた。初めて会ったのにボクにそんなことを言うなんて美人なのに、気さくな方だと思った。もちろん、バイト先で料理を教えることなんてできないので、たまにレシピを書いて渡したりした。 最初の夏と冬、2年目の夏も島田さんは臨時バイトとしてやってきた。でも、それからは就職活動があるからという理由でバイトには来なくなってしまった。待っても仕方ない島田さんを待つのに疲れてあの薬を再び飲んだ。 そして、また偶然に島田さんはボクの職場の経理部で働くことになった。黒髪のロングストレートがとても魅力的だった。今まではショートヘアが多かった。長くても肩にかかる位の長さだったのに、経理部で働いていた時はとても長かった。一瞬にして恋に落ちていた。 小学生の頃からボクは島田さんだけを見てきた。いつも島田さんに恋をしてきた。ボクはこれからも島田さんしか好きになれないだろう。この恋が報われないのは分かっている。それなら、一生ボクは島田さんを陰から支えたい。支えるなんて大層なことはできないが、少しでも島田さんの役に立つならなんだってしたい。そう心に強く思った。 島田さんに最後に会ってから2週間が経った頃、偶然、島田さんと駅で出会い、「山下くん!」と声を掛けられた。 「この前は急に帰るんだもん。ビックリしちゃった。大丈夫?せっかく近所に住んでるんだし、たまに会わない?連絡先教えて。」と、携帯電話を片手に聞いてきた。ボクはあまりの展開にビックリしてしまったが、今回はちゃんと返事ができた。 「ボ、ボ、ボク携帯ないから。」家には固定電話がある。両親とは固定電話で連絡を取っている。仕事はほとんど職場にいるので、携帯電話は不要だ。会社の電話とパソコンで用は十分に済ませられる。 「じゃ、会社のメールアドレスにメッセージを送ってもいい?」会社のアドレスは名前@会社名なので、島田さんはボクのアドレスなら分かると言っていた。これは夢なのではないかと思ったが、翌朝、会社に着いたら、島田さんからのメッセージが届いていた。 「来週の水曜日19時半に駅前の喫茶店で会いましょう。」と。
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