告白

1/1
前へ
/16ページ
次へ

告白

島田さんと友達になって何ヶ月経っただろう。島田さんから土曜日に動物園に行こうと誘われた。動物園なんて幼稚園以来かもしれない。喫茶店以外で島田さんと二人で会うなんて、デートのようではないか!いや、友達なら二人で出かけることは普通のことなのかもしれない。土曜日ということは私服だ。スーツじゃない日だ。女性と二人で会う日にどんな服を着たらいいのだろう。ネットで検索してみたが、ボクには到底似合わない服ばかりで困ってしまった。直接、洋服店に行ってコーディネイトをしてもらった。 島田さんはファッション雑誌から飛び出てきたようにオシャレだった。気取った感じはなく、ラフさがありつつ、ボクが見てもオシャレだと感じられる品も兼ね備えていた。いつもの仕事帰りに会うキチンとしたスタイルではない島田さんはいつにも増して美しかった。 喫茶店では毎週1時間程度一緒に食事をするだけだが、動物園では何時間も一緒だ。島田さんが退屈してしまうのではないだろうか。どんなルートで歩いたらいいのだろう、食事はどうしたらいいのだろう。今更ながら、何も計画を立てていないことを後悔した。 島田さんはそんなボクの後悔など知る由もなく、地図を見て、こっちから歩いて行こうと提案してくれた。動物を見ているだけで島田さんは楽しそうだったので、あっという間に時間が過ぎていった。動物園内のレストランで昼食を取ろうと、レストランに入ると、薬局のおじさんがお孫さんと思われる子供と食事をしていた。おじさんはボクらを見て、 「あ~、そうか、そうか。あ~、そうか、そうか。」とニコニコしていた。ボクらは「こんにちは。」と言って、遠くの席に腰かけた。 「すごい、偶然だね。ビックリしちゃった。」と島田さんが言った。 「偶然といえば、大学生の頃、バイト先が偶然、一緒になったね。ボクの職場にも転職して入ってくるなんてすごい偶然だよね。」と、ボクはこれが運命なら、という思いを込めて言った。 島田さんは少し沈黙したあと、 「バイト先は本当、偶然だよ。でも、転職先は偶然じゃないんだ。山下くんに会いたくて探してたの。で、山下君の職場で中途採用の募集をしているて知って、運よく採用してもらったの。」と言った。 ボクを探していた?会いたかった?何かの聞き間違いじゃないだろうか。ボクは固まってしまって、何の反応もできずにいた。 「わたし、あの薬を飲んだの。大学を卒業してしばらくしてから、妻子のある人と長く付き合っていたの。別れないといけないと思いながらズルズル続けてしまって、途中、他の人とデートをしたりしたんだけど、ダメで。辛くて辛くて、でも、自殺する勇気もなくて。そんな時、なんでも願いが叶うっていうあの薬のことを思い出したの。『幸せになれる最高の男性を教えてください』って願ったの。その日、夢の中に山下くんが現れたから、どうしても山下くんに会いたくて、ストーカーのように色々な人に山下くんの居所を聞いたんだ・・・。ごめんね。」 ボクはあまりにビックリしてしまって何も言えなかった。島田さんも黙ってしまった。二人で黙って昼食をとった。 レストランを出てから、ボクらは黙ってルート通りに鳥園へと向かった。色とりどりの美しい鳥を見ながら、島田さんが 「ごめんね。ちょっと引いちゃったよね。」と心配した顔をしている。ボクがあまりに何も言わずにいたので、余計な心配を掛けてしまっている。 「いや、ちょっと驚いただけだから。」と言うと、島田さんは安堵の笑顔を見せて、話を続けた。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加