真相

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真相

「同じ職場になっても山下くんはわたしのことを覚えていなくて、仲良くなれたかなと思っても全然わたしに興味がないようだったし、迷惑がられているように思えてきて。あの薬はやっぱりインチキだったんだなと思ったの。で、山下くんのことを諦めようと思っていた頃にあの旦那と出会って付き合うようになって結婚したの。寿退社をして、保険会社でセールスレディをするようになってまた山下くんに再会したけど、あれは元の職場だったら保険に入ってくれる人がいるかなという打算からセールスに行っただけだよ。近くに住んでいるのも偶然だからね。」と少しまくしたてるように話していた。 「でも、ボク、暗くてダサくて、冴えないのに・・・。」 「何言ってるの??確かに山下くんはオシャレには疎いけど、肌はキレイだし、背は高いし素材はいいんだよ。寡黙で周りに流されず自分をしっかり持っている人だよ。部長も山下はいい奴だって太鼓判押してたもん!」 「部長!?」 「あ、うん。情報処理部の部長。ほら、あの日。わたしが山下くんをお昼に誘った日。あのあと、部長がわたしのところへ来て、『もしかして、邪魔しちゃったかな』って。だから、部長にはわたしの気持ちを話したの。そしたら、時々、山下くんのことをわたしに教えてくれるようになって。会議ではいつも手短で的確な意見を言うとか、言葉数が少なくて、不愛想だけど、根は真面目でいつも周りのことを気にかけているって。」 部長がそんな風に評価していてくれたなんて知らなかった。島田さんと部長は仲がいいとは思っていたけど、ボクのことで話していたなんて。ボクの憧れで、ボクのアイドルで、ボクの片思いの相手の島田さんがボクのことを気に掛けていてくれたなんて。まさに青天の霹靂だ。 「いつもわたしのつまらない話を聞いてくれて、困っている時にはいつも助けてくれて、山下くんはわたしのヒーローです。大好きです。」 あり得ない。あり得ない。あり得ない。ドッキリか何かだろうか。周りを見てもそれらしいカメラはない。そろそろペンギンショーの時間なのだろうか。周りにはだれもいない。島田さんだけがボクの目の前にいる。 この状況はドラマで見たことがあるぞ。キスだ。キスシーンだ!!ボクはギュッと目を閉じた。ついにボクもキスデビューだ。ドキドキして待っていると、チュッとボクの鼻にキスしてくれた。恥ずかしくて島田さんの顔をまともに見られず、下を向いたままだったが、島田さんは隣りでクスッと笑って、 「好きって言って欲しいな」と呟いた。 「す、す、すき」と、久しぶりにどもりながら呟いた。     ******************************************* 二人で地元に戻った。両親に挨拶をするためだ。実家に行く前に手土産でも買おうとショッピングセンターへ立ち寄った。そこで偶然、薬局のおじさんと出くわした。 「あ!君たち!おめでとう!」 誰かがボクたちのことを話したのか、おじさんはボクたちが結婚することを知っていたようだ。 「ありがとうございます!」と会釈をしてボクたちは中へ入っていった。おじさんの手に持った袋の中に駄菓子のラムネが入っていたことには気づかなかった。 島田さんにはボクが記憶を消した本当の理由はまだ話していない。島田さんに何度も初恋をしたというとどんな顔をするだろうか。いつも見てきた島田さんと人生を共に歩んでいける。なんて最高の人生だろう。     ーーー 完 ーーー
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