落胆

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落胆

中学生になると、島田さんとは違うクラスになった。ほとんど顔を合わすことはなかったが、放課後、バスケ部の練習をしていた島田さんが校庭を歩いていたボクに 「山下くん!そこのボール取って!」と声を掛けてきた。 名前を呼ばれることなんてほとんどないボクはそれだけでドキッとしてしまった。はじけんばかりの笑顔の島田さんに一瞬にして心を奪われてしまった。それからというもの、島田さんのことが気になって仕方がなかった。スポーツが得意なようで、体育の時間では運動場で頑張っている島田さんの姿を見ていた。しばらくして、島田さんはバスケ部の先輩と付き合っていることを知った。同時にそれが原因で嫌がらせを受けていることも知った。 ボクは島田さんを守りたいと思ったが、そんなヒーローな真似などできるわけがない。ただ、島田さんの下駄箱に入れられた悪意のある手紙をこっそり捨てたり、廊下ですれ違う時に悪口が島田さんの耳に届かないように咳払いをしてごまかしたりするくらいしかできなかった。 島田さんの彼氏が高校へと進学し、島田さんから笑顔が消えていった。クラスは違っても、島田さんは人気のある女子だったため、男子内では島田さんの噂話でもちきりだった。どうやら、数週間は交際を続けたようだが、高校へ行った彼氏とはうまくいかず、彼氏のほうから別れを切り出したそうだ。 ある日の放課後、ボクは図書館へ寄ってから帰ろうとしていた。すると、体育館から 「島田!さっきからなんだ!ボーとするな!頭を冷やしてこい!」と先生の怒声が聞こえてきた。島田さんは体育館裏に行き、ワンワンと声を上げて泣いていた。ボクは島田さんの弱い姿を見るのが辛かった。いつも明るく元気な島田さんでいて欲しかった。 その日、ボクは薬局へ行き、あの薬を飲んで、(島田さんのことを忘れたい)と願った。今となって思えば、なぜ、その時、薬を飲む必要があったのかと思う。ボクは島田さんを支えたい気持ちがあったが、どうすることもできない自分が情けなく感じていたのかもしれない。それでも、薬に頼って、すぐにイヤなことから逃れようとしてしまうなんてボクはどれほどまでに心が弱い人間なんだろう。
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