マモノノ王

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マモノノ王

ーーやまない雨はないよ。  そう言ったのは誰だっただろうか。降り続ける雨に俺はふとそんなことを思い出した。体が冷えてきたので、これ以上濡れないようにと木々の根本に移動する。  移動した時に傷口が開いたのか、脇腹から血が流れてきた。血を吸った服の気持ち悪さに、辟易する。何とかしようと腹部を確認したところで意識が朦朧としてきた。俺はその傷口を何とかすることを諦める。  俺のそばには無数の魔物たちの死骸があった。俺が倒した魔物たちだ。  そう。俺は魔物からの最後の反撃を喰らい、今、瀕死になっている。恐らく俺はここで死んでしまうだろう。そう思うと、ぼんやりと辺りを見ていた。  自分が死ぬときまで雨だとは。  先程まで気付かなかったが、草むらから一匹の魔物が顔を出していた。少年の形をした人型の魔物。俺が殺した中に親でも居たのだろうか、キョロキョロ俺の周りを見ていた。少しだけ、罪悪感に心が痛む。  何を今さら。  俺は自嘲気味に少し笑った。魔物にも家族が居ることくらいわかっていただろうに。どちらにしても今の俺はあの魔物をどうすることもできない。俺はあの魔物に殺されるだろう。  動かない俺に殺されることはないと思ったのか、魔物は少しずつ俺に近寄ってきた。俺の目の前まできた魔物は俺に問う。 「ナンデデスカ?」 「……お前、喋れるのか……」  魔物は知性もなく、ただ人を襲い喰らう、そう言われていた。だから、妹が殺された時に全ての魔物を滅ぼすと決めたのに……。  今、目の前に居る魔物の目には、野生的な怒気も狂気も忌避もなく、ただただ純粋なる質問のみを宿していた。 「……復讐。……この世界への復讐のため」 そう。妹が死んでから俺はこの世界を、魔物が居るこの世界を呪った。でも心のどこかでわかっていたんだ。呪ったって世界を憎んだって、ただ虚しいだけだった。 「ワタシタチを、コロスコトは、コノセカイヘのフクシュウにナルのデスカ?」 「……」  俺は魔物にそれ以上返事をすることができなかった。  妹が亡くなった理由は魔物に襲われたからだが、実際のところは少し違う。魔物を奴隷や見世物にしていた商人から逃げ出した魔物が、逃げているうちに妹にぶつかって妹は階段から落ちてしまったんだ。 もちろんその魔物も一緒に落ちてしまい無事ではいない。商人たちは過失で裁かれたが、それだけだった。  俺の気持ちは全く晴れなかった。  商人たちは、どんなに裁かれても魔物の捕獲は止めないだろうし、知性のない魔物たちはそんな商人に捕まってしまうだろう。この事件で世の中が変わることはなかった。俺は、日常生活の運がなかった事件で片付けられてしまったことへの憤りを魔物に転嫁していたにすぎない。魔物を全て根絶やしにすれば、こういう事件は二度と起きない。そう思い込み、俺は大義名分を得て大量虐殺をしてきただけだった。俺はなんて愚かなんだ。  心なしか先ほどより雨脚が強くなってきた気がした。 「タブン、それはチガイマスネ。こんなことをしてもアナタハ幸せにはナレナかった」 先ほどより流暢に話してくる魔物に驚く。魔物は、今、学習しているのだと感じた。そして、この魔物が成長すれば、世界が変わるという予感がした。 「ワタシは、貴方がワタシタチのカゾクをコロシタコトヲ、一生忘れないデショウ」 そう言って魔物は俺の手を取る。 「でも、多分、今の貴方のキモチは少しワカリマス。だからこそワタシは貴方とチガウ道をサガシマス」  違う道を探すと言った魔物は少し笑っているようにみえた。そして、その顔は今まで見たどんな人よりも綺麗で眩しくみえた。  降り続けていた雨が止んだ。一時的かもしれないが雲の間から光が見えたのだ。  魔物はどこにその力があったのか、俺を抱えて移動した。魔物は俺を山の頂きに連れていくと、そっと下ろす。その後ろには眩しいくらいの虹がかかっていた。 「ここでワタシが歩む道を見ていてクダサイ。貴方は世界を見届けるギムがアリマス」  思い出した。あの台詞を言ったのは、妹だった。大切だった妹との思い出すら俺は殺していたんだな。 ーーにーに、また泣いてるの? どんなに辛くても、きっとやまない雨はないよ。だから、一緒に頑張って生きていこうね。  俺は、これからこの魔物が作る未来に希望したんだ。
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