突然の事故

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幸いな事に病院の敷地内であったことから、加奈には直ぐにMRIによる検査が行われ、緊急手術に入る事になった。 「奥様は頭蓋骨を骨折しています。また子宮内にも大量の出血が見られます。まずは母体を優先して処置をする事で宜しいですか?」 担当の医師が僕にそう確認した。僕は大きく首を振った。 「娘から処置をお願いします。……妻もそれを望んでました……」 手術は五時間に及んだ。妻の子宮から取り出された娘は瀕死の重傷だったが一命をとりとめた。 しかし加奈は助からなかった。 ICUの保育器の中で包帯に巻かれた姿で眠っている娘を見つめながら僕は大粒の涙を流した。あの幸せな時間が一瞬にしてこんな悲劇になるなんて……。 本当に小さな娘の寝顔を見ながら僕は呟いていた。 「……愛莉……。加奈が自分の命を犠牲にして君の命を選んだのには……、きっと大きな意味がある筈だ……。僕はそう信じている……」 僕は保育器の前に膝を付き、天を仰いで男泣きした。
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