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 城下町からさほど離れてもいない、野辺の(みち)を若武者が進む。  数人の共を連れ立ち、かと言って仰々しくもなく。  ちょいとそこまで狩りにでもでかけるような、気軽ないでたちであった。  本来ならば使いをやり用事を済ます身分であるが、わざわざこのような町はずれを歩き、自分の足で出向くには訳がある。  なんとしても手に入れたいものがある。そのために目指すところを目指してゆくは、中乃田(なかのた)忠光(ただみつ)。若き城主だ。  城主として初めて身にまとう鎧は、折り紙付きのものと心に決めていた。    武士の界隈では、鎧といえばとある鎧師の名が必ず挙がる。老舗というより流行のようなもので、昨今戦場から生還したものが皆その銘の入った鎧を身に着けていたという話から、皆、(げん)(かつ)ぎをするようになった。  縁起物なだけではなく、出来ばえも素晴らしいと評判だ。誰もがあやかりたいと、その鎧を探す。  忠光(ただみつ)とて、例外ではない。  城主となった今、自分が選ぶのは噂に名高いその鎧師、木立(こだち)雪芳(ゆきよし)ただ一人だと、思い定めていた。 みながこぞって欲しがる鎧を是非とも手に入れたい。  ただし、雪芳(ゆきよし)はそう簡単に自分の名を銘打ったものを世に出さぬという。多く出回っているのは彼の工房、木立(こだち)の銘柄だ。  それでは満足できぬ。ならば城主自ら足を運んだという重圧でもって首を縦に振らせよう。  それが忠光(ただみつ)の目論みだった。
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