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「忠光さま、忠光さま――」
聞きなれた泰芳の声だ。
ここだ。と言いかけて忠光は口をつぐんだ。眼前に現れたのは、見知らぬ男だった。当の泰芳は男の後ろに控えている。
「……泰芳、こやつは?」
泰芳の返答を待たず、男はずい、と前に出た。
「これは失礼。申し遅れた。俺は――」
笑顔を歪めたような顔をして言いかけた男は、不躾に忠光の鎧の喉輪部分を掴み上げた。
「おや……立派な鎧だ。これは誰の拵えだ?」
どのみちこれまでなら、無駄に抗って鎧に傷を付けることはない。せめて雪芳の鎧だけは残さなければ――。
「木立雪芳の鎧だ。これはお前に譲る。だから鎧に傷を付けるな」
「……ふん。要らぬわ。あいにく、俺も持っている」
男は己の鎧の肩紐を引き、忠光に胸あてをはだけて見せた。そこにあったのは雪芳の銘だ。
この男が、もう一人の……。
雪芳はなぜ、こんな男に――。
忠光は胸の内に黒い塊がせり上がるのを感じた。
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