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 忠光が憤りに震えた手を刀の(つか)にかけるや否や、男は信じがたい言葉を発した。 「我が弟の鎧は傑作だ。だが傑作は一つきりで十分だと思わぬか? その方が価値が上がる」  我が弟――?  心臓が止まったような衝撃は例えではない。男は忠光の胸板に勢いよくこぶしを当てた。  こぶしの形に窪んだ金属が胸を圧迫する。いとも簡単に窪んだ胸板は、あの日、雪芳が手ずから打ったと言ってくれたものだ。忠光は息苦しさに膝をついた。 「俺は木立家当主、木立(こだち)晃芳(あきよし)だ。弟たちが世話になったな」 「……どうして……泰芳(やすよし)……どういうことだ……」 「すみません、忠光さま。雪芳は……俺の兄なのです」 「察しが悪いな。中乃田(なかのた)忠光(ただみつ)よ。今ここでお前を打ち取り、わが城を返してもらう。末弟泰芳(やすよし)の役目は貴様を雪芳のところへ導くことだったが、まさか側付きにまでのし上がってくれるとは。おかげですんなりとご対面できた」  かつて中乃田が攻め落としたのは、木立だったのだ。  木立が傾きかけたところを付け込み、中乃田は攻め入った。だがすでに、鎧作りの下職をしていた木立はあっさりと城を明け渡した。中乃田は木立に下屋敷を与え、鎧作りで生計を立ててゆくことを条件に情けをかけたのだ。  自分の物だと思っていた城も国も、祖父が勝ち取ったものとだけ聞かされていた。  すべて、もとは木立のものだったのだ。それを守るなど、なんと差し出がましいことを言ってしまったのだろう。それを雪芳はなんと思っていたのだろう。  
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