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「雪芳に銘を打たせたのは良い思い付きだった。種を撒きじっくり待った甲斐があったぞ。長らく山寺にいたと聞くが、貴様のような山猿もあっさりと雪芳に目を付けてくれた。――お前が雪芳を選んだのではない。俺がそう仕向けたのだ」  木立の長子 晃芳(あきよし)はどうにも鎧作りに打ち込むことができなかった。  遠くに仰ぎ見る城は、かつて我が家だったと思うとやるせない。職人仕事が手につかず再興の野望を抱くようになる。そしてこのとおり、野武士となり下がり中乃田を滅ぼす機会をうかがっていた。  泰芳(やすよし)を見ると俯いてさめざめと涙を流している。雪芳(ゆきよし)泰芳(やすよし)、思えば似た名だ。何故兄弟だと気が付かなかったのだろう。  晃芳(あきよし)の顔をよくよくみると、やはり雪芳(ゆきよし)の面影がある。年がら年中無表情の雪芳が憎しみに顔をゆがませているかのようで、胸が痛んだ。 「そうか。どうりで。雪芳は中乃田のことも、俺のことも、よく知っていた」 「ずいぶんと入れ込んでくれたようだがな、雪芳がお前を選んだのもまた、俺の命令――。ただ、それだけだ」  晃芳は短刀を抜いた。  山肌に背をぴたりと付けた忠光に退路はない。 「さらば」
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