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身を崩したのは晃芳の方だった。晃芳の胸板のすぐ下に刃が深くうずまっている。
だが晃芳の短刀の刃先は忠光の胸板の下でぴたりと止まっていた。
すんでのところで雪芳の言葉が浮かんだのだ。
『鎧はどうしても胸板の下が弱くなります。少し重くなりますが、お願いです。今回は鎧の下にこの鎖帷子を付けて下さい。そのぶん、胸板の鉄を薄く軽くしてありますので――』
――こういうことだったのか。
忠光は叫び声のような声をあげた。
「なぜだ! なぜだ雪芳。城などいらぬ! すべて話してくれれば俺はここで死んでもよかった……!」
情けなど欲しくなかった。
すべてを知りながら、のうのうとあの城を持つことなどできぬ――。
忠光は懐から印籠を取り出し、泰芳へ抛った。
「行け……これを雪芳に渡せ」
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