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 「……兄上……すみません」  ふらふらとした足取りで海沿いを歩いていた雪芳は、誘われるように崖へ向かう。消え入りそうなつぶやきが波音にかき消された。  ――私は彼を選んだ。  初めは家長である兄の手先となり忠光を陥れるつもりで近づいた。  だが忠光と交流を深めるうちに気付いたのだ。  彼は運命を受け入れ、国を、民を、真剣に守ろうとしていた。  目の前のやるべきことから逃げ出し、自分のものではない栄光にすがる者にはとうていやり通すことはできない。兄、晃芳のように、己と向き合うことすらできないものなどもってのほかだ。  ――私はもう、木立の再興を望まない。  逆巻く荒波の飛沫(しぶき)をあびて。  雪芳は脱いだ履物を揃えた。 「私は鎧師として生きて、死にます」  終わり
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