Dark Blue

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 女の世界の中には俺と同じ悪魔  いや、悪魔のような雰囲気を持った人間で占められていた。    四人。    こんなことは初めてだ。    前回の男のときは絶望ゆえに、陰湿な記憶ばかり再生されていたが  どんな記憶であっても、その中に本人がいない、ということはなかった。    不覚にも戸惑った。  自分自身のことはどうでも良いというのか。  偽悪魔には個としての意思が見えない。  が、人形とも違う。  見えないというより薄くて分からないのだろう。  全員少々派手な軍服を着ている。    試しに長い金髪の男に声をかけてみると、沙月と名乗った。  それ以上のことは言わない。    他の三人に声をかけても似たような答えを返してくるだけだろう。  そんな空気だった。  つまり話しても無駄。   「おい、どういうことだ?」 『やっと来たんだね』  姿の見えない女に言うと、余裕のある声が返ってきた。  それとともに姿を現す。  嬉しそうな顔をしていた。死ぬ手前とは思えない。 「見た目は案外普通だ」 「…角でもついていると思ってたか」 「そういう分かりやすいのも良いけど、佐月君みたいだったらなぁ…とか」  気恥ずかしそうに濁した後、行こうか、と言った。 「どこに?」 「地獄。迎えに来たんでしょう」    その通りだが、認めたくない。  そんなところだ、と曖昧に返した。  何も言わずに移動。  女は黙ってそれについてきた。  少しだが灯が強くなっている。  簡単に消せると思ったのは間違いだったらしい。  が、引き下がるつもりはない。心情を探る。 「死にたいのか、死にたくないのかどっちだ?」 「どっちともいえない」  地獄を見てみたいから俺を呼んだという。  ただの人間に出来ることではない。 「嘘を…」 「夢の中で、何人か出てきたんだよ。その中で一番優しそうだったからあなたを選んだ」  俺の言葉に被せて言った。 「嘘を言うな」 「嘘じゃない」  強い一言。  真剣な顔をしているが、簡単には信じられなかった。  あの四人が関係しているのかもしれないが、それについては考えたくもなかった。  面倒だ。女に現実だけを突きつける。 「何にしても死ぬことはもう決まっている。だからいまここに俺がいるんだ」 「私が呼んだのに?」 「呼んだんじゃなくて、選んだだけだろう。他にどんなやつがいたか知らないが、そいつは全部俺と同じ悪魔だ。悪魔は死が決まっている人間の前にしか出ない」 「…そっか」  呟いて立ち止まった。 「残念だったな」 「良いよ、別に。死んでもいい」  投げるように言ったが、その後ろには未練がみえた。    死にたくない理由。ごく薄い何か。  その中身が分からずとも、取り払いさえすれば綺麗に灯を消せる。    ここまでは事情を知ったうえで消してきたが、今回は特殊だ。  イレギュラー。  早く終わらせたいと思いながら、地獄を見渡せる場所へ向かう。  女の希望に沿っているわけではなく、そこに未練を絶つ材料がある。
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