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朋香に誘われていた陸上部への入部を断ったのも、半分はこの人のためみたいなものだった。
運動もけっして得意なほうではないし、部活なんて入ったら、先輩の勇姿を見られなくなってしまう。
練習のときは袴じゃなくてジャージなのが、ちょっと残念だけど。
あれこれ思い巡らせていると、顧問から終了の声がかかり、部員たちは一斉に片付けを始める。
自分の身の回りのことだけやって、あとは素知らぬ顔で帰っていく人たちもいるけれど、北原先輩はあちこちに気を配り、率先して動いている。
さすがは部長だ。そんなところも素敵だと思う。
今日もカッコイイな、なんてぼーっと見惚れていると、ふいにやわらかなものが私の顔面を覆った。
「うわっ!」
驚いて触れる。何かと思えばタオルだ。
あわてて取り払うと、目の前に伊吹が立っていた。
「お前なぁ。雨の日は濡れないとこで待ってろよ。教室とか昇降口とか」
「やだよそんなカップルみたいなこと」
ここにいるのは伊吹のためじゃない。私の勝手だ。
「風邪ひいても知らねぇぞ?」
「いいもんっ! っていうかあんたのほうがびしょ濡れじゃん!」
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