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「何も知らないのはアンタだけさ。こっちにも事情ってものがあるんだよ」
事情なんて、きっと、たかが知れている。女はまだ何か叫んでいたが、ボクは無視して研究所に戻った。
途中、日が高いにも関わらず立ち寄った店で酒を飲んだ。久しぶりですっかり弱くなってしまったのか、三杯飲んだだけで足元が覚束なくなった。
およそ三時間ぶりか。再会した助手の顔色は先程の親父以上に悪かった。
「実は昨日、寄付があり、受け取ってきました」
意外にも朗報だった。
「なぜそれを早く言わない? 古くなるといけない。すぐにセットしよう」
助手は、魂専用の特別な布袋を手に持っている。
「ボクがやる」
しかし助手は、ボクが伸ばした手を払いのけると、そそくさと機械の方へ小走りで向かってしまった。滑らかな手付きでコントールパネルをいじり、魂充填カートリッジを開け放つ。その鈍色の四角い孔に魂の袋を押し当てた。
刹那、うめき声が聞こえた。
驚いた。
それを発したのはボクだった。
一瞬のことだった。
その輝きを、ボクは見た。
孔から僅かに漏れい出た魂を見た。
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