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お願い、断ったりしないで。今日だけでいいから。
デートっぽい雰囲気を出そうものなら、純ちゃんはきっと逃げてしまう。わたしはあくまでも『パフェが食べたい』だけであって、そこにたまたま純ちゃんがいたから誘ったのだというシナリオを頭の中で組み立てる。
「わかったよ、行くよ」
「よかった。純ちゃんなら行ってくれると思ったのよ」
きっと承諾してくれたのは彼の優しさなのだろう。誰が誘ってもこんなふうに行ってしまうのかな、と思うと胸がチクリと痛む。
いつの間にか定着してしまった『純ちゃん』という呼び方。他の女の子たちが『純くん』と呼ぶから、その他大勢になりたくなくてそう呼んでみたのだけど、頑張るところ間違えてるなって後悔はしている。
純ちゃんが広げた傘にそっと入る。断られたら『傘がないの』って言おうと思っていたけど、純ちゃんはわたしを追い出したりしなかった。高い位置からわたしを見下ろして、ふっと目を細めて笑うから、わたしはいろいろなものが溢れてしまわないように気を付けて歩いた。ブラウスの袖が擦れてくすぐったい。
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