バニラムーン

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透さんは、そんな彼女を見ながら、可笑しそうに上機嫌でクスクス笑う。 ── いつも、そうやってからかうんだから。 もう。プイと横を向いて、枕に頭を預ける。 でも許しちゃうのよね。 別に私も、不機嫌って訳じゃないの。 だってこんな風に、透さんがつまらない事で笑っていてくれるだけで、私はとびきり幸せな気持ちになるんだもの。 透さんの声は、とっても素敵。 優しくて。あったかくて。 まあ、たまに面倒だと思う時もあるけどね。 「え、キミの可愛いところ? うん、そうだな……まず声が可愛いでしょう。 寝顔がふかふかに幸せそうで可愛い。 それと透き通った、若草色の大きな目と……って待って、ちょっ、ちょっと!」 言葉が終わらない内に。 寝室から走り込んできた、手毬のような白いもふもふ弾丸が、ひらりと大ジャンプで飛び付いてくる。 洗面台から、洗顔料のチューブや整髪料のプラスチック缶が幾つか床に転がり落ちた。 「あちゃー」と情けない顔をすると、透さんは蓋が外れてしまい中身が出たヘアワックスに屈んで片付け始める。 それでもなんとか、実家から一人暮らしのこのアパートに連れて来てもう1年目の愛猫だけは、落とさないようにしっかりキャッチして、左腕にしっかりと抱き上げている。 「痛たた……はあ〜もう。ダメですよ。 もしガラスが割れたら、危ないでしょ。 一昨年まで暮らしていた、実家じゃないんです。 今までみたいに母さんがいつも家に居る訳じゃないし、まりんさんが怪我しても、すぐに病院に連れて行ってあげられないかもですよ。 僕は新入社員だけど、こう見えて仕事は一杯あるんだから」 小さな溜息混じりに、透さんが言う。
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