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最近アイツは
最近、アイツは美容に興味があるらしい。
壮志郎は鏡台に綺麗に並べられた化粧瓶を覗き込んだ。
鏡にはしかめっつらの自分が映っていて、気をそらすように化粧瓶を一本手に取る。
こんなものを朱莉がそろえ始めたのは、働きはじめてからのことだ。
「化粧水……。こっちは乳液?美容クリーム。こんなん何種類も塗って何か効果あるんかいな」
ひとりごちていると、部屋のドアが開いた。
「はぁ~疲れた」
まるで育児に疲れた主婦のように髪を乱し切って、部屋に入って来た朱莉と目が合った。
「あ!壮志郎!勝手に部屋に入るなって言ってるでしょ!?」
「勝手に入ったわけじゃありませーん。ちゃんとおばさんに、荘ちゃん?朱莉まだ帰ってきてないから、部屋で待っててね!って言われたから、言われたとおりにしただけですぅ~!」
朱莉は呆れた風にため息をついて、髪のゴムをほどき、スーツのジャケットを脱いだ。
「それで、何の用なの?」
朱莉がジャケットをハンガーにかけるのに、壮志郎の横を通ると甘い香りがした。
「別に。朱莉が仕事始めてから、あんまり顔見ないから、元気かなって思っただけ」
朱莉は困ったように笑った。
メイクの下にうっすらと大人ニキビが赤く見える。
「ありがとう、壮志郎」
そう言って、壮志郎の頭をガシガシと撫でた。
それが子ども扱いをされているようで、なんだか泣きたくなった。
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