目線の先にいる人は

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――“壮志郎が言ったんだよ”  最初、何のことかわからなかった。  けれど、言われてみてよくよく記憶をたどると、思い当たることがひとつだけあった。  壮志郎は自分の部屋に帰るなり、ベッドに大の字になって横になった。  朱莉が働き始めて、一か月ぐらいたったときだったか。  サークルの飲み会の帰りに、たまたま帰宅途中の朱莉に会った。家に帰るまでの間、お互いの近況報告をした後、壮志郎は月明かりの下に照らされた朱莉の顔を見た。  心なし、元気がなさそうだ。  働いていたら、嫌なこともあるだろう。学生のバイトとは比べ物にならないぐらい。  横顔を見ていると、朱莉が壮志郎の方を見た。  朱莉の瞳が月明かりで光っている。  変だな。  ただの幼馴染のはずなのに。  今までなんとも思っていなかった幼馴染が、夜の月明かりの下で弱くてかわいい女の子に見えた、  沈まれ、心臓。  そう思うのとは裏腹に、心臓はどくどくと高鳴った。  どぎまぎと目をそらそうとしたとき、朱莉の顔に、赤い突起がいくつかできているのが見えた。 「朱莉、ニキビができてる」  仕事がきついのか、とか、ストレスがあるのか、とか、そういう意味で言ったつもりだった。 「……うん。知ってる」  それっきり、朱莉は黙ってしまった。  その時の壮志郎は、余計なことを言ってしまったことに気づいていなかった。 「あー!あの時の俺のバカバカバカバカバカバカ!」  年に似合わず、手足をバタバタさせて後悔する。 「朱莉、泣きそうだったな」  天井をながめて、ため息をつく。 「謝ろう」  壮志郎はスマホを手に取って、LINEの画面を開いた。  その時、新規のLINEが届いた。  
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