鏡の前で彼女は

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鏡の前で彼女は

 それからしばらく朱莉に連絡できなかったのは、罪悪感からだ。  頬に冷たい感覚があって、我に返った。 「壮志郎、飲んでる?」  純玲だった。  押し付けられたグラスの水滴で濡れた頬をTシャツの袖でぬぐった。 「まあ。飲んでるよ」 「壮志郎が飲みに来るの珍しいじゃん」  純玲はそう言って壮志郎の隣に座った。  今日は純玲の家でたこ焼きパーティーをするというので、冬弥に無理やり連れてこられた。  いつもなら、実家通いなのを理由に断るか、早々に切り上げているところだ。 「たまには、ね」  もうみんなたこ焼きには飽きてしまったらしく、皿にしんなりとなったたこ焼きがまだ残っているのに、持ち寄ったつまみを広げ始めている。 「あ~。なんか純玲ちゃんち、良い匂いがするな~」 「冬弥。そういうこと言うの気持ち悪いからやめなよ」 「なんか、ザ・女の子の部屋って感じ」  そういえば、朱莉以外の女の子の部屋に入るのは初めてだった。  朱莉の部屋よりもかわいらしいものが多い。けれど、棚の中のケースに化粧品が並んでいるのはやはり同じだ。 「女の子って、大変だよね。あんな風に化粧品とかたくさん使わなきゃいけなくて」 「そうかな?私は大変だとは思わないけど。むしろ楽しい」 「楽しい?」 「そう。なりたい自分になれるの。好きな人に好きになってもらえる自分。自分が好きな自分」 「なりたい自分になれる……、か」  化粧台の前に座る朱莉。  鏡の中に映る朱莉は、どんな顔をしているのだろう。
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