なりたい自分は

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なりたい自分は

 鏡台の前には化粧瓶が並んでいる。  鏡を覗き込む自分の顔を見て、壮志郎は前髪を整えた。  壮志郎の後ろから、ひょっこりと顔を出したのは朱莉だ。 「何見てるの?」 「別に」  鏡に背を向けて、朱莉の肩に顎を乗せる。  頬と頬が触れ合う。 「朱莉のなりたい自分って、何?」  壮志郎はふと純玲の言葉を思い出して聞いた。 「なりたい自分?」  朱莉は「うーん」と視線をさまよわせてから、ぱっと笑って言った。 「自信のある、強い自分!」  そのはじけるような笑顔に、壮志郎はキャップを深くかぶせて立ち上がった。 「俺も強くならないとなあ」  朱莉はぶかぶかのキャップのつばをあげて上目遣いに壮志郎を見た。  そして、いたずらっぽい笑みを浮かべると、立ち上がって壮志郎の腕をとった。  鏡に映るふたりが、部屋を出ていく。  カジュアルな格好の壮志郎と、ワンピースの朱莉。  今はただの幼馴染ではなく、恋人同士のふたりが。
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