最近アイツは

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 朱莉が美容に興味を持ち始めたのは、働き始めてからだ。  学生の頃は、化粧はしても“一応”しているという感じで、鏡台にも必要最低限のものしか並んでいなかった。  あの男のためか。  毎朝あの鏡台の前で、あの男のために化粧をする朱莉を思い描いて、胸が痛くなった。 「あーあ、働きたくないなぁ~」  壮志郎が見ていたものを、目で追っていた純玲が言った。 「あと二年後には私たちもあんな風に働いてるんだよね。あんな風になりたくないなあ」  純玲が頬杖をついてため息をついた。  その頬はニキビひとつなく、つやつやとしている。 「二年と言わず、一年後にはもう就活だよ」 「うわー。想像したくない」 「そんな先のことより、今は目の前の単位!」 「はー。私、今日徹夜しないと間に合わないかも」 「え―無理。夜22時には寝ないと、お肌のゴールデンタイムが~」 「純玲はもう十分肌綺麗だから一晩徹夜したって大丈夫!」  しゃべってばかりで、課題は全然進んでいない。 「純玲も二年後には大人ニキビができてるかもな」  何気なくつぶやいたつぶやきを、誰も聞いてはいなかった。
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