目線の先にいる人は

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「あら、壮ちゃん」  日曜日、図書館にでも行こうかと思って外に出たところで、買い物帰りの朱莉の母と顔を合わせた。 「この前、ありがとね」  この前というのは、朱莉の部屋で朱莉の帰りを待っていた時のことだ。 「いや。俺、何も……」 「でも、壮ちゃん来て、ちょっと元気出たと思うからさ」  実はこの前、朱莉を部屋で待っていたのは、朱莉の母に言われたからだった。 「最近、仕事仕事でストレスたまってるみたいで。よかったら話聞いてやってよ」  学生の自分に朱莉が愚痴ったりしないだろうということはわかっていたが、励ましたいというよりも、ただ久しぶりに朱莉の顔を見たいと思ったのだ。 「朱莉、今日いる?」  朱莉の母は首を振った。 「今日も休日出勤だってさ。そろそろ帰ってくるとは思うけど」 「今日も、部屋で待ってていいですか」 「どうぞ、どうぞ、何もおかまいできませんけど」
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