目線の先にいる人は

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 朱莉の部屋の化粧台には、化粧瓶と、化粧品が並んでいる。  前よりも増えたような気がする。  ほのかに甘い香りのする部屋に、居心地悪くウロウロする。  ふと、棚の上にあるぬいぐるみに目がいった。 「これ……」  パンダのぬいぐるみだ。  この前来た時には気が付かなかった。  もう毛がぼさぼさで、かすかに黒ずんでいる。 「懐かしいなあ」  それは、壮志郎が小学生の時、朱莉にあげたものだった。  UFOキャッチャーでとれたので、何気なくあげたものだ。  こんなものをまだ持っていると思うと、なんだかソワソワする。  ガチャ……。  部屋の扉が開いた。 「おかえり」 「壮志郎っ!まったくまた……」  言いかけた朱莉は、壮志郎が手に持っているものを目にすると、さっと壮志郎に飛びついた。 「あ、それっ!」 「懐かしいな。まだ持ってたのか」  壮志郎はわざと朱莉の手の届かないところにぬいぐるみを持つ手を伸ばした。  ちょっとしたいたずら心だった。 「返してよーっ」  朱莉は全力で壮志郎の手からぬいぐるみを奪い返そうとする。 「ちょっと、あかり、押すな」  朱莉の圧力に、壮志郎は後ずさり、後ろにあったベッドにつまづいた。  拍子に朱莉も重なって、ベッドに倒れこんだ。
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