14人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
「あの、お母さんにはちゃんと私から言うから」
「友達と帰んなくてよかったのか?」
「あのね、私……」
「お父さんと一緒に帰りたい」
やっと直接言えた。お父さんはポンと頭を叩いてくれた。
私たちはそれから色々な話をした。前の父親の話とか、お父さんの話も聞いた。お母さんと出会った頃の話も。私がその時のお母さんと似てるって言われた。
お母さんは再婚した父親に遠慮していたみたいだとか。おじいちゃんは何度も会ったけど、優しい感じだった。だから、お母さんもすぐ好きになったみたいだけど、そんなこと知らなかった。おじいちゃんには他に血の繋がった子供がいて、その人に引け目を感じてたって。私も一度だけ会ったことがある。
お父さんの知り合いだっていうのは驚いたけど。
良和おじさんっていうんだけど、その人からお母さんが結婚した話を聞いたらしい。
それからやる気をなくして引き込もってたとお父さんは言った。
「お母さんのせい?」
きっかけはそうだったけど、自分の心の弱さが招いたことだとお父さんははっきり言った。
他人には無駄に見える時間でも、無駄かどうかは本人が決めることで、だからお父さんは無駄だと思っていない。貴重な時間だったと思っているというようなことを言った。
お父さんが人の気持ちに敏感だったり、私やお母さんや柏原さんまでみんなの立場を考えたりするような所は、そのせいもあるかもしれない。
十六年もの長い間外に出ないで過ごすなんて想像できない。ちょうど私の歳と同じ期間。つまり私が赤ちゃんの時からつい最近までってことだから。
久しぶりに外に出たらどんな気持ちだったのかと聞いてみた。
でも、あまり大きな感動はなかったみたい。
「ただ、ものの見方が変わったというか、今までと別の次元で考えられるようになったというか」
そんな風にお父さんは言って、私にはよくわからなかった。
帰ってお母さんに一番に話した。お母さんは何で私たちがいきなり仲良くなっているのかと変に思ったみたい。
平日だけど、お父さんはうちに泊まっていった。
私は幸せで、このままこの生活が続いていくものだと思ってた。
最初のコメントを投稿しよう!