お父さん

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 でも、次の日私が学校に行っている間にお父さんは実家に戻ったと聞いて、私は驚いた。何で私に内緒でそんなことするんだろう。用事があるからしばらくこっちに来れないと言っていたらしいけど、本当かな。私が無理に頼ったりして、愛想をつかしたんじゃないかと、そんな気がしてならなかった。  前の生活に戻っただけなのに、ポカンと穴が開いたみたいで寂しかった。いつの間にかお父さんがいるのが自然になってて、それがこんな風に急になくなるなんて想像できなかった。  毎日お母さんに、「お父さんいつ来るの?」と聞いてたら、「自分で確認すればいいじゃない」と言われた。そんなこと言われても、電話なんかかけられない。メールアドレスは知らないし、お母さんに聞くのもなんか嫌だった。本当に私に愛想をつかしたんじゃないかって怖かった。それが一週間、二週間と続くと、だんだん不安が大きくなった。  夏休みになってもお父さんは来なかった。土日にお父さんが泊まりに来ていた時に、夏休みになったらしばらくこの家で過ごすと言っていたのだけど、どうして何の連絡も来ないんだろう。 「お母さん、お父さん私のこと嫌になったのかな」  とつい口にしてしまって、お母さんは答えに困っていた。 「そんなわけないじゃない」 「でも」  私は不安で仕方なかった。 「そんなに長引く用事なの?」 「よく知らないのよ。そこまで聞いてなくて」 「役に立たないし」 「だからどうして私に聞くの?」 「それは……」  その時、私はお父さんに言われた言葉を思い出した。「弘美が生まれてきたのには罪がない。引け目を感じる必要なんかないんだ。ただ、自分の思う通りに生きればいいんだよ」という言葉を。  お父さんは、そんなことで愛想つかしたりするような人じゃない。私本当に馬鹿だ。どこかで、まだ疑ってた。お父さんは自分の血のつながっている子供じゃないから、私のこと大事じゃないんじゃないかって。お父さんはずっと優しかった。それにただ優しいだけじゃない。必要な時は叱ってくれたし、本当に私のことを考えてくれてた。何もわかっていなかった。あんな風に学校の先生に声を上げてくれるなんて、私のことどうでもよかったらするはずないのに。
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