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「お母さん、お父さんに会いに行こうよ」
「え?」
「私、お父さんになる人はあの人じゃなきゃやだ」
「弘美」
「本当は怖かったの。あいつみたいに、殴ったりとか、変なことしてくるんじゃないかって。だって、血がつながってないのに、私のことなんか娘と思えるのかなって。でも、お父さんはそういう人じゃない。やっとわかった。だって、最初から無理強いしたりしなかったもん。私がその気になるまでいつまでも待つって言ってくれてたのに、私が勝手に焦って、いらいらして。それなのに涼しい顔をして、当たり前のように『ちゃんとどこに行くか伝えてくれないと困る』とか言ってさ。世間は危ないとかすぐ言うし、でもクラシックのこと話すときは子供みたいにキラキラしてるし、変なお父さん」
「信じて裏切られるのが怖かった。お父さんはずっと優しくしてくれたのに、お母さんと結婚するためにわざとそうやって見せてるのかと疑って。でも、この前学校に来た時、言ってくれたの。『私が生まれて来たのに罪はない』って。お母さんに苦労ばっかりかけて、こんな風に結婚を反対したりして、嫌な思いさせてるのかなって気持ちもあったけど、私が生まれないでお父さんとずっと付き合ってたらもっとうまくいってたんじゃないかってどこかで思ってた。そしたら私の存在を否定されてる気がして嫌だった」
「弘美」
お母さんはごめんさいと言って泣き出した。もうお母さんって涙腺弱すぎるし、困る。
「私、浩信が『大丈夫。きっとわかってくれるよ』っていうから安心して、勝手に任せてた。最初は弘美つっけんどんだったのに、だんだんほぐれてくのがわかったから、任せていいんだなって思ったの。その、高校に行った時もまさかあんな風に仲良くなってるなんて思わないじゃない。びっくりしたけど、もう大丈夫って思ったら、浩信が実家に行っちゃうし、私だってどうしたらいいかわからなかった。多分、用事があるのって嘘なんじゃないかって思ったから」
「え? そうなの?」
「弘美がそういう風に自分から言うのを待ってたんじゃないかって。というか、今気づいたんだけど」
「お母さん?」
「弘美がそんな風に話してくれてうれしかったの。だから、もしかして浩信って私たちにそういう話させるためにいなくなったんじゃないかって今気づいたのよ」
「そういうことか。なーんだ。お母さんも騙されてるし」
「しょうがないでしょ」
お母さんがむきになるのもおかしい。お父さんってちょっとそういうところがある。
「でもさ、多分実家に行くとはお父さん思ってないと思う。だから、驚かせちゃおうよ」
「もう弘美は」
そんなこと言いながら、お母さんも乗り気で、結局私たちはお父さんの実家に二人で乗り込むことにした。
お母さんは一度挨拶に行ったようだけど、道がかなりあやしかった。ちゃんと一回で覚えてほしい。住所でなんとか調べてやっとたどり着けた。
呼び鈴を鳴らすのにお母さんが緊張していたけど、その後「浩信いないって」とお母さんが言い出した。「すぐに帰ってくると思うって言ってるけど、どうする?」
「じゃあ、せっかくだから待ってようよ」
ということで、お父さんの実家にお邪魔することになった。
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