お父さん

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 ある時、その人はお互いを知るために私たちと一緒に暮らしたいと言い出した。だいたい思春期の女子ーつまり私だけどーがいる家に他人の男が一緒に暮らすなんてありえない。風呂とか着替えとか、気を遣わなきゃいけないじゃない。  風呂の時間には風呂はおろか洗面所にも近づかないという条件で、とりあえず週末だけ泊まりに来ることになった。下着でうろうろしたりできなくなるし、正直めんどくさい。  実際の生活はそいつが来てもあまり変わらなかった。変わったことといえば、遊びに行く時にいちいち毎回気をつけろと言われたり、夕飯を一緒に食べるぐらいだ。  でも、私は疑心暗鬼だった。きっと私と過ごすから、本性を隠してるんだと思った。  ある日、お母さんが用事で出かけ、初めて二人きりになった。私はもしかしてお母さんに隠れてひどいことされるんじゃないかって気が気じゃなかった。  ちょっと緊張して、黙りこくって、その空気にいらいらして、用もないのに出かけようかと思った時、 「そんなに警戒しなくても、何もしないけど」 と言われた。  私は見透かされてるのが嫌で、 「うるさいわね。私、出かけてくるから」  と言うと、 「どこに?」  と聞かれた。 「どこだって関係ないでしょ」  と言っても、冷静にそいつは言うのだった。 「きちんと場所は言ってくれないと、何かあった時に困る。それから帰宅時間も」  私はその言葉に反発して「保護者じゃないくせに」と言ったが、そいつはため息をつき、女子の一人歩きは危険だとか、日本はもう安全な国じゃないとかにべもない。だから私は言ってやった。 「本当は別に行くとこなんかないもん。でも、この空気が嫌。なんかしゃべってよ」 「じゃあ、一緒に出かけようか?」 「え?」  そいつは急にそんなことを言いだして、私を外に引っ張って行った。抵抗することもできたけど、やめた。なんとなく、ついて行ってみようかなって思った。 「どこ行くの?」 「そう言われても、俺はこの辺知らないんだ。弘美さんが案内してくれないかな」  この人は私のことを弘美さんと呼んでいた。 「わかった。じゃあ」  天気がよく、初夏でちょうどいい気候だったので、吉祥寺までぶらぶらすることにした。
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