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それから、柏原さんに話があるから先に教室に戻るように言われた。私はもう少し側にいて欲しかったけど、あいつの目を見たら、何も言えなくなってしまった。
私が教室に戻ると、心配そうな顔で智恵が見た。
放課後、何故か柏原さんが教室に来て謝ってきた。
私のことをよく知らないで余計なことを言って悪かったと。
私もさっきひどいこと言ってごめんなさいと謝った。
私に謝ったのは、あの人に言われたからだろうけど、柏原さんは根は悪い人じゃないみたい。ずけずけものを言うから誤解されやすいだけで。
私たちはそれから仲良くなったのだけど、それ以上に気になることがあった。
誰かの目線を感じる。私が今柏原さんと話しているのを見て笑っているような。
私は教室を出て叫んだ。
「待って!」と。
誰もいなかったので、下駄箱に駆けて行った。上履きのまま外へ出てようやく見つけた。
「待ってって言ってるでしょ」
そいつは振り返って
「もう大丈夫だろ」と言った。
「そうじゃなくて、言いたいことが」
と言って、ふーっとため息をつく。
「その、ね」
なかなかこの一言が口にできなかった。
「ありがとう」
やっと言えた。
わざわざそんなことのために追いかけたのかと、そいつは笑った。
私は違うと言いながら、
「もう少しで学校終わるから、少し待っててくれないかな。一緒に帰ってもいい?」
と口にした。
「お母さん、照美にばれたくないから俺を呼んだんじゃないのか? 一緒に帰ったらまずいんじゃ」
「それはそうだけど、その」
私って本当に馬鹿だ。自分がどうしてこの人を呼んだのかすでに忘れていた。
「途中で偶然会ったとか適当にごまかせばいいじゃん」
そいつは少し困った顔をした。
「そんなに本気で隠す必要ないなら、最初から照美を呼べばいいだろ」
少し怒っているように感じた。だから私は叫んだ。
「違う!」
「本当は、来てくれるって本気で信じてなかった。ただ、悔しくて、先生に何も言えない自分が嫌で。きっとあなたなら、本気で怒ってくれるってどこかでわかってたの。だから、利用したの。最悪だけど」
「私ね、さっき先生に言ってくれて、本気ですっとした。気持ちが晴れた。だから最初に思ったお母さんに知られないようにっていう気持ちが薄れていって、別に無理に隠す必要ないって」
「弘美」
「だってそうでしょ。確かに自分で言うべきだし、自分で言えない自分が一番悪い。気持ちが晴れたのもあなたのおかげ。だからこそ私はお母さんに隠したくないの。うれしかったから、一番に話したい。駄目なの?」
うまく伝えられない。本当はお父さんって呼びたい。そう。多分私はずっとお父さんって呼びたかったんだ。
でも。
それにさっきからこの人は弘美って呼んでるのだ。弘美さんじゃなくて。
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