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「別に、何かあったら呼んでくれて全然構わない。ただ、柏原さん、彼女に言い過ぎたというのは自分でもわかってるだろ。確かにあの先生は最悪だし、利に合わないことは強く言い含める必要がある。でも、自分の発言に対しては責任を持たなきゃならない。彼女にも非があるけれど、言葉一つで最悪な事態も起こりうることを常に考えて行動してほしい」
「うん」
「一つ気になったのは、先生に強く言えないのも、柏原さんと喧嘩になったのも、君がどこかで引け目を感じているからなんじゃないか。母親が苦労したのも、すぐに離婚できなかったのも、父親がどうしようもないのも、自分のせいだって感じているように見える。強く思っていなくても、どこか無意識で。でも、それは違う。弘美が生まれてきたのに罪はない。引け目を感じる必要なんかないんだ。ただ、自分の思う通りに生きればいいんだよ」
私は同じようなことをこの人からも、他の人からも何度も聞いた。その時はきれいごとだって思った。なのに、今どうしてこんなに心に響くんだろう。
「どうして弘美って呼んでるの?」
「え? 嫌ならやめるけど」
「嫌じゃない」
私は靴履き替えてくるから、ちょっと待ってと言おうとした。
すると、柏原さんがこっちに向かってくるのが見えた。
「ほら、鞄。ホームルーム終わっちゃったよ」
わざわざ持ってきてくれたみたいだった。
「あ、ありがとう」
ついでに柏原さんはお父さんに余計な一言を言う。
「先生、弘美ってばちょっと強がりの所があるから、よろしくね」
「ちょっと、柏原さん」
「そんな他人行儀いや。有岐って呼んでよね」
「有岐?」
「うん。じゃあね、弘美。また明日ね」
その後智恵が来て、バイバイって言ってきた。私は二人に手を振って、靴を履き替えに昇降口に急いだ。
それから私とお父さんは二人で成城の駅まで歩いた。
しばらく少し無言だった。でも、前ほど空気が重くなくなった気がする。
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